その時
「ふー。今日もお疲れさま、輝さん」
「はい♪お疲れ様ですわ、おひいさん」
夕暮れ時に輝さんと2人並んで歩く。
バイトの終わりのゴミだしの最中だ。
夕陽に人陰が映る。
光の加減でよく見えない。
「あの、お仕事中にすいません.....」
姿は見えなくても、声で分かった。
柏崎君。
私の彼女、輝さんを好きになった男の子。
「大丈夫、もうお仕事も終わりですから。おひいさん、少し失礼しますわ」
輝さんと柏崎君2人が夕陽の向こうに消えていった。
その時が来たんだな.......。
胸が痛むようなむず痒いような、そんな気持ちで2人戻るのを私は待つしかなかった。
──向こうから帰って来た輝さんと柏崎君。
話が終わったようだ。
私と目が会うと、柏崎君は軽く会釈をしながらも、私に聞いてきた。
「あの、初めましてで失礼なんですが、最後と思うんで聞いていいですか?輝子さんの好きな人は、貴女ですか?」
「初めまして。どうしてそう思ったの?」
「俺と輝子さんが会話している時、凄い目でこっちを見てたから.......」
私の輝さんを見る目は、やっぱり相当凄いらしい。
第3者の観測ではっきりした。
もっと、気をつけなければ.......。
「でもおひいさんのあの熱量のある視線がたまらないんですわ♪」
うん、分かった、静かにお願いします。
私は柏崎君に返事する。
「そうです。私が輝さんとお付き合いしてるわ」
「やっぱりですか」
「変だと思う?」
「はい。変だとは思うんですが......俺が好きになった輝子さんが、好きになった人ですし仕方ないかなあって」
「君、中学生にしたら度量あるなあ」
「あーーー!初恋破れたかあ!!彼女さん、輝子さんの事泣かさないでくださいよ?」
「分からないよ。けど君の涙の分も含めて努力する」
「泣いてないですよ?俺」
「今はね」
「お見通しですかw大丈夫そうですね。割って入る隙間も無さそう」
「おひいさんと私は、一枚岩ですから」
「そのままでいてください。さようなら、輝子さん。お幸せに」
「元気でね」
それ以上は、語る事もなくただ背を向けて歩きだす柏崎君。
夕日が照って、その背中は見えなかった。
無言だけど、手を振っているのだけは分かった。
言わなかったけど、柏崎君にも幸が訪れますようにと、心の中で静かに祈った。
いつか、彼が好きな人と結ばれますようにと。
「いい男の子でしたね、おひいさん」
「ほんとだねー、輝子さん。出会う順番が違ったら危なかったかもしれないねー」
「.........」
「そ、そんな訳ないけどねー。時空がネジ曲がっても、出会う順番が違っても、輝さんの隣にいるのは、私だからねー。だから、輝さん黙らないで、目を細めないで、ごめんなさい!」
輝さんの無言、こわっ!
初めて、輝さん怒らせちゃった。
柏崎君、どうしてくれる?
心の中で即、柏崎君を売り渡す私。
「おひいさんには、後で愛のお仕置きですね♪」
「一枚岩!私達は一枚岩!」
あああっ。
輝さんに腕を取られて、引きずられていく私だった。
ドナドナの気持ちが分かってしまった......。
続く