表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/144

バックヤードで囁いて




それでもだ。

それでも、これだけ足しげく通われたら......。

今日も今日とて、明石焼きを買って少しお喋りをして.......その男の子、柏崎君は帰っていくのだった。

今時の子って、あんな純情なのかなあ?

と、余裕のすっとぼけをする私。



「お、おひいさん?......爪でカリカリしないでください」



あっ。

無意識に、爪で厨房のステンレス製の机を猫のように引っ掻いていた。

キーキーと音を立てて。



「そんな目で見ないで下さい。いけません......ゾクゾクとしてきて.......いけませんわ」



私、そんな目で輝さん見てるのか。

まあ、カリカリというよりはムラムラだろうか?

このお腹の底から沸き上がってくる感情は。

輝さんは困った表情をしながらも、愉しそうな目をする。

忘れてたけど、やっぱりこの人魔性だ。

中々、理性と正気を保つのに苦労する。


ここは、職場......。

ここは、職場......。


襲いかかりそうになる衝動を押さえて、輝さんをキッと見る。



「そんな凛凛しいお顔も素敵です。おひいさん」



私はちょっと照れそうになりながらも聞く。



「じゃなくて輝さん、あの子どーするのさ?なんか次第に打ち解けて来て、喋りやすそうになってるんだけど?」



「ええ、そうですわね。いいお客さんではありますが、少々気安くなってしまいましたか」



「そろそろ私は嫌な予感しかしないんだけど?」



「そう、そろそろでしょうか。その時にハッキリ言い渡しますわ」



なんか、胸が詰まるな。

さっきまで、あれだけ輝さんを取られたくないと、嫉妬でお腹が焦げ付いたのに。

少ししか見かけないあの少年なのに。

いや、これに近い感覚を私は知っている。

私は、かきむしるように胸に手をやる。

苦しい。



「京子の事を思い出しますか?おひいさん」



輝さんが囁く。

耳元で聞いた訳では無いのに、その小さな囁きは私の耳に届く。



「仕方ない事なのです」



それは分かっている。

今こうして、少年を京子ちゃんを思い出して慮る気になっても、輝さんの隣は私が居たい。



「私は何も咎められませんよ?ただ好きな人がもう居ただけで。ですから、おひいさん」



囁くのでは無くはっきりと口にする輝さん。

私の目を真っ直ぐに見て。



「貴女も咎められる事はありません。自分を責めないでください。私の隣にいてくださるのなら」



.......。

ごめんね?

分かってるんだけど、私の中で駄々をこねて。



「大丈夫ですよ?おひいさんが不安になったら、私はいくらでも隣で手を握りますから♪」



笑顔で支えてくれる輝さん。

いけない、いけない。

どこまでも支えられそうで、寄りかかってしまいそうで、私はバチーン!!

と、自分の頬を両手で叩く。

まだだ!

まだ分からないじゃないか!




「あらあら♪」



そんな私を嬉しそうに見る輝さんだった。






続く





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ