アルバイト初日
「お早うございます!」
「ふん!おはよう。うん、制服に着替えてきたね。よろしい。じゃあ、仕込みから開店の準備いくよ」
「はい。お願いします!花水木店長!」
「良い返事だ、店長でいいよ。先ずは厨房の電気をつけて、ガスの元栓を開ける。ふん!」
「それで、仕込むといっても焼きそばだけさ。とりあえずやって見せるよ。ふん!」
店長が暖まった大きな鉄板の上に、これまた大きな冷蔵庫から豚のバラ肉を出して、油をひき炒め始める。
薄いけど、大量のバラ肉をお好み焼きのコテで、ブツリブツリとひと口大の大きさに切り刻んでいく。
そして、メインのそばだ。
大量である。
これを焼ききるのか?
と疑問に思う量だった。
さし水を回しかける。
ジュワ~
お、美味しそうに見えてきた。
朝、パン食べたけど視覚的に訴えられて、お腹が鳴りそうだ。
店長は、豪快に両手を広げてコテで焼きそばをほぐしていく。
そして、また冷蔵庫から今度はタッパーを出してくる。
「これ、キャベツね。これは、夕方仕込んで帰ってね、ふん」
キャベツのざく切りを大量に焼きそばに混ぜる。
ざっと、炒めてソースを回してかける。
市販のものだろうか?
「ふん!市販のだよ。きれたらそこで買ってこれるからね」
市販でした。
まあ、そんなものよね。
でも、美味しそう。
天カスも振りかけて焼き上がった。
焼きそばたち。
「んじゃ、詰めていこーか?これは、やってね。ふん」
透明パックに、トングで焼きそばを詰めて、青のりを振りかけて、紅しょうがを添える。
輪ゴムで、パッチン!
と閉めて一人前。
これを、三十回繰り返した。
なんて量だ.......。
「凄い量でしたわね。調理してから一時間はたっていますわ」
「ふん!開店だ!後のメニューと、レジ打ちは実践で教えながら今日は営業するよ」
「はい!」
『いらっしゃいませー♪』
──「おひいさん」
?
輝さんか.......。
ああ、ボーとしてた。
ん、そうだ。
休憩中だった。
「大丈夫ですか?やっぱり事務所で休んでた方が......」
「いや、いいんだよ。ここでいいんだ」
私達は、淡水魚のコーナーの1番大きな水槽のピラルクの前にいた。
体長2.5mはあろうかという、見事なピラルクが2匹。
悠然と泳いでいた。
「うん、落ち着いた。ピラルク見てたら、バイトの疲れが癒されたよ」
「でしたら、よろしいですが......」
輝さんの手を握って、大丈夫と更に意思を示す。
「さすが、輝さんの推しだけあるね」
「推し?とはよくわからないのですが、子供の時からこの水族園のピラルクはお気に入りでした」
「ふふふっ♪面接の帰りの水族園デート、このピラルクでほとんど時間使ってたもんね」
「お、お恥ずかしい......」
「輝さんの好きな魚を知れて。輝さんの子供っぽい一面が見れて良かったよ」
「お、お恥ずかしい!」
輝さんが、水族園でゆでダコになっていた。
夏休み中に、後何回ゆでダコになるだろう?
密かな楽しみだ。
ピロリロリン♪
ピロリロリン♪
ひぃ!
アラームが鳴った!
休憩時間が終わりだ!
地獄が!
地獄の時間が帰ってくる!
「戦場に戻るのか.......」
「おひいさん、参りましょう!」
フンス!
店長のクセが移りそうな、私達だった。
なるほど。
これは気合いいるなあ。
続く




