まくらを下手投げ
今度こそ、とっぷりと日が落ちて深夜も深夜。
肝試しから帰ってきて、女子の大部屋に帰ってきた。
無事に帰れてなによりだよ、ほんと。
肝試しもあって、消灯時間まであっという間だったけど、むしろコレで寝る訳がない。
いや、寝ちゃう娘もいるけど。
「ポテチとポッキーあるよー」
クラスメイトの女子がお菓子を持ち寄って、大多数がヒソヒソ、クスクスと、おおっぴらにワイワイと騒がずに集まって自然と円陣になっていた。
「恋バナ!恋バナいこうか!」
誰かがそう言って、輝さんに話が振られた。
あっ。
まずい。
「豪松陰さんは、好きな人はいるの~?もしかしてもう付き合ってる人がいるとか?」
キャイキャイ♪
と無邪気なクラスメイト達に興味を向けられる輝さん。
「豪松陰さんって、お嬢様って感じでミステリアスでクールだから、どんなタイプが好きなのかな~♪」
「えっと。その、いつも私を見ていてくれる人で.......」
律儀に答えようとする輝さん。
「いつも、私の隣にいてくれる背の小さな可愛らしい人で.......」
.......お恥ずかしい。
これ以上は不味いと判断して、私はニヤニヤとしながら、ポッキーをかじりながら聞いていた夏海に、アンダースローで、まくらを投げつけた。
ボフッ!
「あんだー!誰だ、コノヤロー!お返しだ!」
うん、狙い通り。
アンダースローで、まくらがどこから来たか出所が分からなくした。
そして、キャー♪
と、黄色い歓声と共に敵も味方もなく、まくらが暗がりの中で舞う乱戦が始まった。
「いいとこだったのにぃ!」
ボフッ!
「まあ、正直助かったわ」
ボフッ!
「ハッ!危なかった!危なかった!申し訳ありません、おひいさん!」
ボフッ!
「まあ、こうなりゃもう大丈夫かな?」
ボフッ!
キャイキャイ♪
『こらー!!消灯時間ですよ!みなさん!』
女史の担任が駆けつけた。
灯りがついて、見られた光景はなんと無惨な光景で。
かけ布団が入り乱れ、まくらがあっちこっちに散らばって、全員寝たふりをしていた。
「高校生にもなってまくら投げなんて!ほんとにもう、小学生じゃないんだから!今度やったら、補習にしますよ!」
電気が消されて、担任の女史が去っていき、一定の時間静かだったけど、
プッ♪
クスクス♪
と、笑いをこらえるクラスメイト達。
「も~誰よ、最初にまくら投げたの~楽しかったけど♪」
「ほんと、ほんと。意外に楽しかった。無心になったのひっさびさだったし♪」
ご好評のようで何よりです。
さて、誤魔化せたし寝ましょうか?
「で、恋バナの続きしよっか♪」
「恐竜の話ししようぜ」
元の木阿弥の、恋バナに話が戻ろうとした瞬間、今度は夏海が話を叩き折ってくれた。
マジな顔で、恐竜と言い出されて、クラスメイト達は、
「ね、寝よっか」
「またにしましょう.......」
こうして、夜も本当に更けていった。
ふぅ。
.......寝れる。
と、思って目をつむった矢先に私の手が誰かに握られた。
暗がりで見えないけれど、よく知った手の感触と温度。
見るまでもない。
輝さんの手だ。
そりゃ、そうか。
さっきの肝試しも、いい雰囲気だったし。
さっきの恋バナの時も顔が火照ったろうに。
「お手洗いに行きたいな。ついてきてくれない、輝さん?」
輝さんが、こっくりと小さくうなずいたのが、暗がりでも何となく分かった。
続く