恐怖を克服するものは
体操着の上に学校指定のジャージを着こんでいるけれど、うん。
風呂上がりだけど、ちょうどいい温度だな。
「どっちがどっちに?と思いましたが.......」
「そうだねぇ。まさか、見文の方からだとは。分からないもんだねぇ。まだまだ勉強不足だったわ」
「も、もう堪忍してえ~日衣ちゃん~」
「.........」
見文が両手で顔を覆い、夏海は腕を組んで仁王立ち。
だけど顔真っ赤で、無言。
照れてる、照れてる。
「まあ、良かったですよね」
「私は、言って欲しかったけどねぇ。まあ、良かったは、良かったか」
カップル二組。
まあ、理解のあるというより当事者だらけ。
霊脈でも通っているの?
「でも、最初の方散々いじってくれたよね?自分らを棚に上げて」
「あっ、日衣心!肝試しやるみたいだぜ?行こう、行こう!」
晩ご飯がすんで、一心地ついていたが、集合がかかったようだ。
ちぃ.......。
流そうとしてるな?
私はもっと引っ張ろうと思っていたけれど、隣に輝さんが来て、さりげなく手を繋がれて。
........まあ、その手が温かったから。
怨み言も、これぐらいでいいか?
と、思って前の2人に言葉を投げ掛けて終わりとした。
「夏海、見文!おめでとう!ずーと仲良しでいてね!」
「お前らもな」
「日衣ちゃんも、輝さんも!」
なんだか照れ臭いけど、嫌じゃない。
胸がムズムズして、嬉しくて。
皆がこんな気持ちだったらいいなと、輝さんの繋いだ手にギュッと力を込める。
輝さんは軽く微笑み、力強く握り返してきた。
そうだ。
これでいいんだ。
私は漠然とそう思った。
そう思えた。
ギャーギャー
とっぷり日の暮れた街から外れた郊外の、ちょっとした林の中。
闇に紛れて姿は見えないけれど、カラスの鳴く声が夜の静寂に響き渡る。
えっ......。
何これ?
臨場感ありすぎじゃない?
私は数秒前の、これでいいんだ。
という思考を数秒で翻した。
「運営は馬鹿なんですか?確かに、もう高校生ですから、こんなのにビビるとかないですよねえ?とか、ビビるわ!こんなん!ふざけんな!ガチすぎんだろ!なんかあったら責任取れんのか!?」
「お、おひいさん。落ち着いて!私がいます!後、運営って何ですか?学校です!」
場の作り出す得も云われぬ恐怖の空気に、私は思わず乱れてしまった。
手を繋がれていただけでは足らずに、私より背の高い輝さんが、半身を私の腕に埋められて、私はようやく正気に戻った。
「こぇーよ。初めてバイオハザードやった時張りにこぇーよ」
「大丈夫、大丈夫。おひいさん、怖くない、怖くない」
「あ。もっとギューてして、輝さん。ギューと」
あったかいなあ......。
「日衣心。だから公衆の面前でイチャつくなと言ってるだろ!」
夏海の腕に、見文が体を預けて絡めていた。
お前が言うな。
おまゆう。
いや、でも。
「あったかいよねえ」
素直な感想を述べる私に、ま、まあな.......!
と、詰まるように顔を赤らめる夏海。
そんな私達を見て、寄り添ってくれるサイドの2人は、モヤモヤ、モンモンとして、体を一層擦り付けるのでした。
すいません、誰か止めて下さい。
アンナ先輩を、この場に切実に要します。
「はい、ランタンだよ~」
係りのクラスメイトが、明かりを持ってきてくれた。
電気製のランタンだ。
これで少しは落ち着いた。
皆が我に帰って、少し離れて普通の距離に戻った。
ソーシャルディスタンス、大事。
公衆の面前ですもの。
さあ、男女ペアか。
どうするか?
私は思案する。
しかし、私の横には輝さんが。
夏海の横には、見文が。
既に決定事項のようだった。
世界はどこまで百合に甘いのだ!
どんとこい!
で、全乗っかりする事にした。
ギャー
ギャー
カラスの鳴く声を聞いて、やっぱバイオ怖かったよなあ。
と、思い出す私だった。
続く