夕立の雷
宿の縁側で足を投げ出して、雨粒に素足を晒す。
ぴたり、ぴたりと水滴が着いては、こぼれ落ちていく。
ざざざざざ。
ぴしゃり!
ががががが!
雷も落ちてきて、本降りになったみたいだ。
「おひいさんは、雨はお好きですか?」
「好きと言う人は少ないと思うけど、私は好きだなあ。こうやって、家の中に居て外の雨を楽しむのは。こんな夕立ちも好き」
「それはわかりますわ」
ぴたり、ぴたり。
ざざざ。
雨が屋根を打ち、伝わって落ちてくる。
輝さんも、私も、言葉少なめになり、ただ雨樋に伝う雨音を聴いて楽しんだ。
ケロケロ
おっと。
さすが郊外に来ただけあって、雨に誘われて蛙まで出てきたよ。
いいなあ、こういうの。
空気がしっとりと湿って。
抜群の雰囲気だ。
「日衣心。そろそろ風呂だぞ?」
雰囲気が日常に戻された。
私と輝さんが、夏海の方を見た。
見たら、夏海の脇を押さえて、腕を絡ましている見文がいた。
ん!?
いつもの日常との違和感が。
感じたのは、気のせいか?
「ありゃ、しまった」
ベロを出して、夏海から離れた見文。
違和感が疑念に変わる。
輝さんがキュピーン♪
と、察知した。
「お二人はそういう事ですか?」
「え。どうゆう事だってばよ!?」
「あはは。輝さん、日衣心に言っといて。よろしく!」
「今なら、もう日衣ちゃんにバレてもいいかなー?まあ、仕方ない!いや、折を見てと思ってたんだけど」
「なん!?なん!?」
「落ち着いて下さい、おひいさん。夏海さんと見文さんはですね」
はい。
落ち着きました。
あの2人がどうしたんですか?
輝さん。
「お二人はお付き合いされています」
!!
ぬっぐぅ!?
えっ!!
ええっ!?
声にならない声が、私の頭で、胸で、お腹の中で、木霊する。
顔面蒼白になって、血の気が引いていく。
「おひいさん。しっかりしてください。大丈夫ですか?おひいさん」
「.......ないよ」
「えっ?」
「聞いてないよぉぉぉぉーーーー!!!!」
先ほどまでの雨でしっとりムーディーな夏の夕暮れに、雷が、ぴしゃーーん!ごろごろごろ.......。
と、落ちて私の心も落ちてくる。
じゃなくて、聞いてない!
聞いてないよ!!
私!
十年来の付き合いなのに!
腐れ縁なのに!!
顔を真っ赤にして、怒りやら、驚きやらが混じった私に、輝さんが静かな声で染み渡らせる。
「おひいさん。夏海さんも見文さんも、おひいさんを仲間ハズレにした訳では無いと思いますよ?」
でも、黙っていた。
3人でずっとやってきたのに。
「仲間だから、軽々には言えない事でもあると思います。それは私達に置き換えてもそうでしょう。私達の環境は、恵まれ過ぎているのです。最初に、彼女達だけが付き合っていたら......。言う事にどれ程のリスクを伴うでしょう」
落ち着いてきた。
うん。
頭も冷えてきた。
「.......そうか。そうだね、輝さん。だけど、やっぱり。やっぱり幼なじみのよしみで言って欲しかったのは、拭えないね」
「気持ちはお察ししますわ」
「うん。だからね?輝さん」
ニヤリと笑う私。
!?
輝さんが困惑の表情を浮かべる。
「今から、徹底的に追及して、隠していた分だけお祝いしてやるんだ!輝さんもついてきてね?」
「......!切り替えの早い方ですのね、おひいさんは。宜しいですわ。もみくちゃにしてお祝いなさいましょう」
「うふふふふ。さあ行こうではないか!」
「承知!」
旧知の友人カップルに、祝いの絨毯爆撃を開始するために、目に見えないマントを翻して、私達は旅館の温泉に向かうのだった。
待っていなさい。
夏海!
見文!
いつの間にか夕立の雨はあがっていて、夕陽の光が差し込んでいた。
続く




