限界突破
「おっそいよ!日衣心!!ダッシュ、ダッシュ!」
夏海の声で、バテバテになっている体にムチを入れて、もう一伸びダッシュする私。
うん。
まだ走れる。
文科系とはいえ、やっぱり花の10代の私だった。
「ごめ~ん!皆!寝坊して、走るの、付き合わせちゃって、ごめん!」
待ち合わせの場所から、現地集合の場所までダッシュする私達。
夏海も見文も輝さんも、みんな息を切らす事なく走り続ける。
.......流石、体育会系。
徐々に。
徐々に、私の脚色が鈍ってくる。
やっぱり、文科系ではついていけない.......。
顎は上がり、ぜいぜいと息が切れる。
「み、みんな、先に行って.......ってぇ!?」
泣き言を言おうとした私の脇に輝さんの腕が絡まって、引きずられるように牽引された。
て、輝さん。
なんてパワー.......!
「いや、ていうか、ちょっと待って!」
引っ張られて、足は走るけど息の方が続かない。
体は動いても、呼吸器は限界だった。
「おっ。朝から、腕組んじゃって妬けるねえ!」
「日衣ちゃんも、輝ちゃんも熱いんだから!」
いや、そんな冗談に答える余裕が私の肺には、無いんだけど。
隣で輝さんが、テレテレしていた。
いや、隣見て。
私、限界。
──程なくして、列車が出る時間ギリギリには間に合った。
私はというと、限界を越えて引きずられ続けて、ただ限界を越え続けたダッシュだった。
いや、寝坊した私が全面的に悪いんですが。
寝起き限界突破ダッシュで、列車の中のトイレに籠る私。
「う、うぇぇぇーーうっうっ!」
吐いちゃってた。
胃がひきつりそうなのは初めて。
「だ、大丈夫ですか!?おひいさん!すみません、すみません!無理やり過ぎました!」
「.......うん。分かったから、聞かないで、輝さん。うっぷっ!」
自業自得とはいえ、輝さんにこんな姿を晒すのは忍びない。
恥ずかしい。
せっかくの臨海学舎への旅路が、列車のトイレに籠るのがスタートとは......。
先が思いやられる。
「.......ふう。とりあえず落ち着いたかな。もうなんも出ないや」
顔を洗って、うがいをしてトイレから出たら、輝さんが、おどおどと凄く心配そうに私を見る。
「おひいさん、すみません、すみません.....。私に何か出来る事は無いでしょうか?」
特に、もう無いんだけど、輝さんが泣きそうなぐらい心配して、こちらを見てくるので、何か頼もう.......。
ああ、足が限界突破したので吊りそうな感じだから。
「ん、んじゃあ、足をマッサージしてもらおうかな?」
「はい!かしこまりました!」
車内の座席に座り、足を放り出して向かい側に輝さんが座って、足を揉んでくれる。
うーん。
なんだろう。
この背徳感は?
「.......ん!」
太ももを、輝さんの熱い手で揉まれて、思わず声が漏れる。
「痛かったですか?おひいさん?」
「.......んーん。輝さんの手、気持ちいいよ?」
自分の目が潤んでいる気がする。
フンガーと、輝さんの鼻息が荒くなっている。
「........君らはなんちゅう空気を作ってるのかね?」
「え、エロいよ......?2人とも?」
夏海と見文が、このなんちゅう空気を破壊してくれて助かった。
あ、あっぶなー!
私も輝さんも、熱に浮かれたように仕出かすところだった!
.......アンナ先輩!
付き合いたての私らは、どこでもイチャイチャしそうになります!
先輩の言う通りでした!
「時と場所を選ぶのも、エチケットだよ?」
「つーか、バカップルの域になってるぞ?」
夏海と見文に言われて、返す言葉も無い私達だった。
両手で顔を覆い、穴があったら入りたい気持ちでいっぱいだった。
それでも時間は止まる訳もなく、ゴトン、ゴトン、と列車は、私達を臨海学舎へと運んでいくのだった。
は、恥ずかしい.......!!
続く