待て!......をされている気がする
夜更けも夜更け。
カチリとカウントする対象が、ほぼ途絶えた頃。
やっぱり危ないからとの理由で、隣のイスで輝さんが仮眠を取っていた。
「綺麗な寝顔だなあ.......」
私は、カイロで温まった手のひらで輝さんの頬っぺを撫でた。
ううん。
と、輝さんが私の手のひらに頬擦りをする。
喜んだように。
なんだか猫を撫でているような気分だ。
ふと、ツンと指が、唇に当たる。
むにぃ
柔い。
唇ってこんなに柔いんだなあ......。
妙な感心をしつつ、背徳的な気持ちが胸に沸いてきた。
明かりも薄く、輝さんの幸せそうな寝顔。
有り体に言えば、モヤモヤ、ムラムラ?
してきた私だった。
男子か私は。
「........いただきます」
周りを見て、目がぐるぐる、頭もぐるぐる、魔が差したその瞬間。
静かな国道の遠く。
闇の中、光と音の洪水が近づいてきた。
ファンファンファンファン!、
バババババ!
パラリラパラリラ!
チャラリラチャラリラ!
あー。
物凄い数のバイクの集団が、私の前を轟音をたてながら過ぎていく。
通勤、お勤めご苦労様です.......。
タタタタタタタタタタタタ!
私はヤケっぱちで、速射砲のように自動2輪車をカウントした。
てゆうか、分かるか。
かなり適当なカウントだった。
反省。
と、轟音が去っていって、また静けさと暗やみに覆われる私。
ふと、隣を見る。
輝さんの細い目が、うっすら開いていた。
暗やみの中で、瞳が月の光を反射している。
綺麗だ。
輝さんは、私の手を取り自分の唇に私の指をそっと当てる。
やっぱり輝さんの唇は柔らかかった。
さっきの、輝さん起きてたのか.......。
未遂とはいえ、今さらながら恥ずかしくなってくる。
そして今、私はたまらなくなっていた。
輝さんの、その柔らかい唇を指先で堪能して、輝さんも気持ちよさそうに目を閉じる。
「いいの?」
私の問いに、輝さんは無言で小さく首肯く。
私は自分の手を、輝さんの頬っぺたに滑らせて、顎を固定する。
そのまま、自分の顔を近づけて.......。
「ご苦労様ー。やってる?」
『まだ、やってません!!』
後方から、いつの間にかリーダー役のお兄さんが、やって来ていた。
私は跳び跳ねて、輝さんは固まったままだ。
どれだけ、焦らされるの......。
私も輝さんも気持ちは同じのようで、八つ当たり的に、リーダーのお兄さんに無言の圧をかけた。
「い、いや、さっきの暴走族は仕方ないからね?こっちで数を調整しとくらから......ってそれだけ、失礼しました!」
業務上の連絡を伝えると、リーダーは気まずそうに去っていった。
ごめんなさい。
貴方が悪い訳じゃないのは、分かってたんだけど。
「じゃ、じゃあ、おひいさん。私少し散歩してみますね?こっちに公園があるとか?」
「う、うん。ホームレスのおじさんが寝てるよ」
あっ.......。
そそくさと去っていく輝さんを、後ろ髪が引かれる思いで、だけど何も出来ない私。
惜しい事したなあ.....。
こういうの雰囲気とタイミングなんだよなあ.....。
と、私は残念な気持ちになる。
只々、たまに来る車両を、カチリ、カチリとカウントしながらボーとして、輝さんの唇柔らかかったなーと、思い返していた。
だから男子中学生か。
と、自分にセルフつっこみをしても、やっぱり思い出してしまうのだった。
仮眠してないけど、目はランランと覚めてしまっている。
何度目かのお預けに私は、
ほんと、どうしてくれよう?
と、思わずにはいられなかった。
続く