沈黙と動転
「いらっしゃいませ」
自動ドアが開き、ピロン♪と音がして、ファミレスの店員さんが迎えてくれる。
連れが先に入店している旨を伝えると、どうぞと入店を促されて店内をグルリと見る。
「あ、あそこです、おひいさん」
輝さんが一足先に見つけてくれた。
私達は、その席に歩を進める。
いた。
栗色の髪を束ねたアンナ先輩と。
目をそらしている京子ちゃん。
そして........。
「あれ!?花知華先輩も?」
「よー♪塚輝!なんだよ?俺がいちゃマズいのか?」
「そういう訳ではないですけど......」
京子ちゃんの肩に手を回している、花知華先輩。
京子ちゃん絡まれとる。
そして、その手をアンナ先輩につままれていた。
「冗談だよ、冗談!イテテ......。いや、焚き付けた原因でもあるし、後輩放っぽいたら寝覚め悪いだろう?アンナから聞いて来たんだよ」
いい先輩だった。
今、思い返すと確かに。
うん、焚き付けられてた。
京子ちゃんと輝さん。
結果こうなって、見届けに来たんだな。
「まあ、とりあえず座んなよ。んで、あるんだろう?報告」
「いや、でも......」
「いいから、トドメさしてアゲテクダナサイな。オヒイサン?」
花知華先輩も、アンナ先輩も、知ってて言うのか。
京子ちゃんを見ると、京子ちゃんは只々下を向いていた。
私は、酷な報告をする。
「......その。私と輝さんは......。付き合う事になりました......」
.......しん。
と、ざわざわした店内の声が聞こえる中の静寂が訪れる。
いくばくの時が止まる。
悪い事をしたわけじゃないのに、その静かさが心臓をえぐる。
「........ハァ」
やがて、小さなため息と共にまた時が動きだす。
京子ちゃんが、初めて顔をこちらに向けた。
目が赤く充血していて生気の無い顔でボソリと漏らす。
「........おめでとうございます、と言えとでも?さすがに昨日の今日では、無いわ」
「まー確かに。こんなに早くデキるとは、流石の俺も思わなかったぜ」
「ジカンとうものは、アッテないようなモノですよ」
止まった時間がバババと走る。
私も輝さんもその流れに只飲まれる。
「今日だって、なんで私拉致られて2人と会わなきゃいけないんですか?気不味いなんてもんじゃないですよ。私の気持ち関係なしですか?」
言えない。
これは何も言えない。
「わかってる、わかってるよ、後輩。だけどよ?離れて、落ち着いてってなったら、お前部室によりつかなくなるだろう?」
「.......それが、普通では?」
花知華先輩に、京子ちゃんが返す。
それはそうなんだけど、だけど......。
「ああ、普通だ。出来上がった2人の間に入り込む余地は無い。無い事も無いけど......。わかった、わかった、アンナ!......だけどまあ京子。今は無理でも、走研に籍を残しとかねーか?この繋がりをぶったぎるのは、長い目で見てお前には損だと俺は思う」
私と輝さんが何か言おうとしたけど、アンナ先輩が手で制する。
「予感シナイ?百合のワタシ達の縁が、アタラシイ出会いをヨブ気がスルワ」
........。
少しの静寂の後、京子ちゃんが席を立つ。
「馬鹿馬鹿しい。頭沸いてるんですか?お金はここに、今日はこれで。考えるのも今、面倒なんですけど籍残しとけってんなら残しときますよ。失礼します」
「またな、京子♪」
京子ちゃんが席を立って、足早に店から出ていった。
一瞬目を覗いたら、虚ろな瞳だった。
「まー、とりあえずこんなとこかなあ」
「エエ。ヒトトオリ落ち込んで、頭が冷えてからデスよ」
花知華先輩とアンナ先輩が2人ごちた。
そして私達に向かって言う。
「まあ、当事者から言われるより、俺らが口挟んだ方がクッションになってまだ聞く耳は持つだろーなと。これで、まだ縁が繋がる可能性は残せたって、訳だ。当分、顔は見せねーだろがな。それはそうと、おめっとさん、塚輝♪」
「........ありがとうございます」
本当に、この先輩方は.....。
私達は、2人で再び頭を下げた──
続く