どっちがどっち?
生徒が校舎に吸い込まれていく校門前で。
輝さんと朝の挨拶をする。
「おはよう。輝さん」
「おはようございます、おひいさん。昨日は大丈夫でしたか?」
「う、うん。大丈夫!あははっ!色々あるよね、人生!」
私は色々、誤魔化した。
皆がいる今この場では。
挨拶をしたら、私と輝さんは会話無いままに、旧友2人と少し喋る。
上履きに履き替えて、教室へと階段を上がり、ドアを開けて、中に入ろうとするギリギリの段で。
私は、輝さんの手を取って声をかける。
「ごめん、輝さんちょっと一緒に来て。大事な用があるの」
困惑する輝さん。
私より背の高い輝さんが、力も無く私に引きずられる。
私は前を歩いているので、輝さんの表情を伺いしれないけれど、それで良かった。
輝さんの顔を見れたら、私も見ちゃいられない顔になるだろうから。
どっちにしろ今から向かい合うんだけど。
夏海と見文が、細い目をしたような気がした。
「あ、あの、おひいさん?どちらへ行かれるのですか?授業が始まってしまいます」
「うん。授業についてはゴメン。申し訳ないけど私に付き合って?私と輝さんの話なんだけど、早く輝さんに伝えたくて」
「........待てない。ぐらいだったんですね?」
「ごめん、わがまま言って」
「いえ、おひいさんのままに。......ああ、屋上ですか。2人になるにはいいですね」
屋上への扉を開けて、少しぶるりと震える。
春にしては、今朝は肌寒かったから。
輝さんの手から温かい体温が伝わる。
輝さんは、私の手を離さなかった。
私も輝さんの手を両手繋ぎにして、輝さんの正面に立つ。
輝さんが口にした。
「.......それで、おひいさん。どういうお話でしょうか?」
輝さんが澄んだ瞳を、元々細い目を更に細めた目から垣間見せる。
.......昨日の事だと、輝さん分かったんだろうな。
でも私も口にする。
言葉にする。
「.......昨日ね、輝さん。昨日、見ちゃったんだ。聞いちゃった」
「やっぱりそうでしたか。おひいさんが急に休むのは不自然でしたからね」
「盗み聞きする積もりはなかったんだけど、ご免なさい。あの時は、部室に入れないよ。入れなかった」
「それで.......どうでしたか?」
輝さんが、やっぱりかと嘆息した表情から、緊張した表情に変わる。
ドキドキしているのが伝わる。
私もだ。
「でもね。輝さんの私への気持ちを聞いて嬉しかった」
「う、嬉しかったんですか?」
「うん。昨日帰ってから色々考えようとしたんだけど、ずーとドキドキして顔はニヤけっぱなしで。やっぱり嬉しいんだよ」
「そ、それは、その。好きなのだと解釈してもいいのですか?」
「そうだよ、輝さん。君が好きだ」
ギュウと私の両手が握りしめられた。
下を向いてしまった輝さんの細い目から、ボロボロと大粒の涙が溢れていた。
「もう少しの間、曖昧な友達でいたかった気もするけどね」
私は独り言を、この場にいない小さな先輩へと向けた。
おせっかいなんだから。
「輝さんの事、最初に見ていたの私なんだよ?」
「いえ。私では?」
涙のままに笑う輝さん。
「どっちがどっちなんだろねえ?」
今となっては判別出来ないけれど。
それでも良いことなんだと。
この人の笑顔を見たら、そう思った。
だから私も笑った。
続く