私は見た
キーンコーンカーン♪
本日の最後の授業の終わりを告げる鐘が鳴る。
今日は日直があるから、輝さんに遅れて部活に行くと伝える。
「.......はい。分かりました先に行っていますね」
少し曇った表情で精細を欠く。
いつもの凛とした姿から遠い、今の輝さん。
私も、ギクシャクしてこういう時にどう接していいか分からない。
日直の仕事でズレたのは、ありがたいと思ってしまった。
あれだけ心地いいと感じていた、輝さんとの間を、そんな風に思ってしまった。
!!
ばちん!!
............!
............こうじゃない。
私は自分の頬を両手で張る。
いけない、いけない!
弱気は禁物だ。
嫌な想像しか出てこなくなる。
待っていろと言われたけれど、待っていたら駄目な気がする。
私の勘が、そう告げる。
私は、せかせかと日直の用事を済ませて、部室へと足を急かす。
凄くモヤモヤする。
この状態が、常態になるのは耐えられない。
なんらかの答えを経て、宙ぶらりんのこの状態から、脱したい。
私は、部室へと足を急ぐ。
部室が見えた!
あと数歩で入り口のドアに手がかかる。
その距離まで近付いた時、中から声が張り上げられる。
「お姉さま!!」
さっきまでの急いだ体が、ビタリと部室の前で止まる。
思わずかがんで、中の様子を伺う。
気配を消して。
ドアの上部のガラスの部分から、ソーと覗きこむ。
先ほどの大声の主は、京子ちゃんの声だ。
覗くと、京子ちゃんが輝さんの両手を掴んで、詰め寄っていた。
尋常ではない緊迫感がある。
少し様子を見た方がいい気がしたので、そのまま見ていた。
「離しなさい。京子」
「嫌です!」
いつもの凛とした輝さんではない。
京子ちゃんの迫力に詰め寄られ、輝さんの上体は、机の上に仰向けになった。
仰向けになった輝さんの顔の横に京子ちゃんは、手をついて乗っかる形になる。
何が起きているのだろう......。
何が起きるのだろう.......。
心臓がドギマギして、見てはいけないモノを見ている気分がしてならない。
京子ちゃんが口を開く。
なんとか聞き取れたけれど、何かの間違いではないのだろうか?
と、自分の耳を疑った。
「好きです。お姉さま」
.........うん。
どうしよう。
部屋に入れない。
無理。
輝さんが、一応という感じで言葉を返す。
「ええ、私も京子の事が好きよ。可愛い後輩よ」
「違うんです!」
京子ちゃんの声が大きくなる。
2人とも近距離で真顔で見つめ合う。
「そうではなく、恋愛対象としてお姉さまが好きなんです.......」
「.........そう。ごめんなさい、真剣に告白してくれたのに、はぐらかして。貴女の私を見る目は1人を除いて他の人と違ったわ」
「1人って誰ですか.......。やっぱり......」
「ご免なさい。私は貴女とはお付き合いできないわ京子。私には心に決めた人がいるの」
「........はっきり言って下さい、お姉さま!あの人が!会長がその人なんでしょう!!」
強烈なショックと共に、京子ちゃんの声が私の耳を裂いた。
.........?
私?
えっ?
なにも考えられない。
ただ2人を固まったまま、私は見続ける。
「.........やっぱり!やっぱり!........ちくしょう!」
涙を流して、輝さんの体に乗っかかり拳を握りしめている京子ちゃん。
そんな京子ちゃんを何も言わず肩に手をかけて、なだめている。
私は、その場をソッ離れた。
心のモヤモヤはドキドキに代わり、どうしていいか分からないまま、とにかく1人になろうと、その場を離れた──
続く