加速差し切り型
「選手がすごい人数ですね」
「まあ、全国から集まった大会だからな。ざっと人ってとこか。塚、アンナがどこまでいくか予想してみるか?」
「いえ遠慮しておきます。ここは純粋に応援したいので」
「んじゃ、私が......っててて!」
京子ちゃんのこめかみに輝さんがグリグリしていた。
私を見て、輝さんは笑顔だ。
うん、そう。
アンナ先輩を応援しよう!
「アンナは400mだな。オレも同じ競技だったな。さてさて、オレを越えてくるかな?」
「これ、全国区だったらいい成績だったら、進路にも影響するんじゃないスか?」
「そうですわね。お姉さまもアンナお姉さまも、スポーツ推薦で大学へいくのですか?」
確かに。
これだけ一芸に秀でていたら、それだけでやっていける気がする。
そんな甘くは無いんだろうけど、この先輩なら不可能では無い気がする。
「ふん、まあなあ。お誘いは、あったよ。けど、オレは蹴った。やりたい事が変わったからな」
「えー!?もったいないスねえ!せっかくの結果を放棄して別の道に行くなんて」
「でも先輩らしいっちゃらしいです」
「そうですわ」
へへっ。
と、鼻を鳴らして先輩は、隠れてない照れ隠しをする。
年上で凄い人なんだけど、なんだか微笑ましい。
私達が、花知華先輩を愛でていると先輩が、
「ほら、始まるみたいだぜ?こっちじゃなくてあっちに注目してやってくれや」
これ以上は恥ずかしいと、先輩は離れたアンナ先輩
を指差した。
アンナ先輩はスタート地点に着いて、軽いストレッチをしながら精神を集中させていく。
スタート台に足をかけて、クラウチングスタートの構えになる。
静かになった。
見ているこちらも静かに、緊張した。
「セットアップ」
パーン!
スタートのピストル音と共に、緩やかなカーブの走路を綺麗な飛び出しを見せる選手達。
各選手ロケットスタートを決めてグングン加速する。
アンナ先輩は少し後方だ。
ああっ!
クソッ!
「いけー!アンナ先輩!」
「いけいけー!!負けるなー!」
「頑張って!」
私達は、揃いも揃って声を張り上げる。
あっという間に直線コースから、ゴール目掛けてラストスパートを開始する各選手。
「アンナは、加速型だからなあ。これからだぜ」
大きなストライドで、両手を交互に振り抜き、物凄い加速を見せるアンナ先輩。
後方からグイグイと先頭を走るランナーに迫る勢いだ。
「差せー!!」
飛びきり大きな声を出した私に、みんなが振り向いた。
アンナ先輩が、先頭を切ってゴールしたところを皆見逃した。
私だけ見ていた。
「かっかっかっ。塚は、やっぱり馬から離れられないなあ!面白いかけ声だぜ、クックックッ」
「会長、おっさんみたいな声出てましたよ?」
「.......おひいさん。少し恥ずかしいです」
みんなに言われて、私は我に帰って恥ずかしくなった。
赤面しながら、後頭部をポリポリかいた。
競馬じゃないもんな.......、反省、反省。
「でも、凄いですわアンナお姉さま。1着ですよ?」
「ほんと、スッゲー!後ろからぶち抜けてトップで!」
「いや、まートップだけど、これタイムで争うからなあ。アンナもこれ一戦で終いだし、下降りてねぎらいに行こうや。んで、飯でも行こう。おごっちゃる」
「はい!やったー!」
走り終えたアンナ先輩の元へ、選手の入り乱れる一階へ降りていく私達。
アンナ先輩の走る姿は、綺麗だったなあ。
人の走る姿も綺麗なんだ、と認識を改めた私だった。
続く