小さなうずき
ヒュルリと私と輝さんの間に、秋を感じさせる木枯らしが舞った(教室の中なのに)
.......感じる。
輝さんは笑顔だが、先程までと同じ笑顔に感じない。
口元の微妙な筋肉の動きを、私はキャッチした。
体の糖分をこの一瞬に全て頭に回せ!
今が!
この一瞬が後の未来が決定すると、私の神秘の本能が告げていた。
父母から受け継いだ、この勝負師の血統。
誰を相手にしても、恥じる事はなかった。
恥じるという事は、父母に対して失礼に値すると。
16才の今の今まで、そう思い、信じてきたけれど.......。
胸の奥が小さくうずいた。
私はそのうずきを、恥ではないと判断。
何かに向けて、勝負師としてこの判断は正しいとサイを投げた。
「──とまあ、馴染みの無い名前の会なんだけどね(笑)要は、競馬の予想をするっていうだけの会かな」
事実そうなんだけど、私は自分の中にある熱いヘドロのような、目の前の輝さんにぶちまけたい思いをグッと飲み込み、なんでもないように短く伝えた。
この間1秒足らず。
間違ってない。この判断は間違いじゃない──。
「競馬?公営ギャンブルの競馬ですか?なるほどそれで、走馬予測研究会ですか。予想をして賭ける、と」
「か、賭けない!賭けない!予想するだけ!お金はいっさい発生しないよー!そしてレースを見て楽しむだけ!」
ふむうー。
と、納得しそうになった輝さんに訂正を入れる私。
だけど、輝さんの口からギャンブルの言葉が出てくる事に、変な背徳感を感じてしまった。
後、やっぱり胸の奥がうずいた。
そのうずきを振り払うように私は、輝さんを誘う。
「まあ、色々あるんだけど、オタクな道だからねえ。初体験だし、レース見て楽しもうか!」
本当に楽しんでもらえるだろうか?
と、頭の隅によぎったけど語尾に力を入れて誤魔化した。
──そして、過去の有名なレースを見て(見せて)盛り上がる私達だった。
「うふふふっ♪スゴい!1番後ろから、ごぼう抜きしましたわ!」
「スゴいでしょ~?追い込み馬っていうの」
「まあ♪まあ♪こんなに後ろを突き放して最後まで走るなんて!」
「逃げ馬って言ってね~、大逃げっていうの」
最初はこんなものだろうな。
次があるのかは分からないけど。
教えていいのかどうかも、迷う。
元とはいえ、お嬢様にギャンブルの入り口の手解きなんて.......。
「競馬ってスリリングなんですね。分からなくても見ていて飽きませんわ」
夕日が輝さんの横顔を照らす。
狐目の長いまつげが照らされて、競馬という単語が出ているのに、物憂げな印象を受ける。
サラリと引いて私は言った。
「そろそろ下校の時間だし、今日のとこは、お開きにしよっか輝さん」
続く