憧れとベクトル
──という事で、走研に入会という事でいいのよね?
西崎さん。
一応確認して、入会届けを書いてもらう。
書いてもらいながら、会に何故入るのか愚問と分かりつつも聞いてみた。
「カッコよかったんスよね~。お姉さま!一目惚れっスよね。お姉さまに憧れたっつうか。お姉さま見て体に電気走ったんスよね」
「体に電気走るの?まー、でも輝さんに憧れるのは仕方ないかなあ~。輝さんカッコいいもんね」
西崎さんの、輝さんに対しての気持ちは、共感できた。
私は体に電気までは走らなかったけど。
少しハデな見た目だけど、感受性は豊かなのかも知れない。
「そーなんスよ!先輩、陰薄いスけど、気が合うなあ!」
「西崎。会長に対して無礼です。わきまえなさい」
「し、失礼しましたっス!」
.......アハハハッ。
なんちゃって体育会系じゃなくなっていく~。
でも、西崎さんは少し生意気かなあ。
輝さんに言わせてばかりじゃ駄目だよね。
私も、言うときは言わないとなあ。
まあ、次からでいいか。
「西崎さん。文化祭の時に予想対決見てどうだった?」
「いやあ~、熱かったっス!自分まだ陰キャだったんで、あの場にいるだけで精一杯だったんスけど、自分を変えよう!と思ったイベだったんスね」
「え?私達が原因?」
そうか。
この娘、高校デビューだったのか。
でも、輝さんを見て憧れたにしては、自己変革のベクトルが随分ズレてる。
何処を参考にしたんだ......。
「いや、自分攻めたかったんス」
「西崎。10年早いですわ」
輝さんが辛辣だ。
だけど、西崎さんは挫けない。
「あのう、お姉さま。出来れば、京子と呼び捨てにして欲しいんス」
「そこまで親密では無いわ。呼びません」
「まあまあ、輝さん。私も呼ぶし、呼ぼう?ね、京子ちゃん?」
「いや、先輩は別に呼んでくれなくていいスけど」
「先輩の好意を無にするべからず」
京子ちゃんの頭にコツリとやる私。
輝さんを見て、これで勘弁してやって?と見る。
「.......仕方ありませんね。おひいさんが、そう言うのでしたら。どうも不出来な後輩のようですから、面倒はみましょう。不本意ですが、分かりましたね?京子」
「うはは~♪お姉さまが、名前で呼んでくれた~♪」
何か、いけないお薬でも飲んだかの様に、京子ちゃんの顔が多幸感で一杯だった。
「返事は?」
「は、はい!よろしくお願いいたします!」
そりゃそうなるよね。
しかし、知らないのだけど元のデビューする前の京子ちゃんの方が良かったかなあ?
これは、否定してしまうか。
「京子。お茶を淹れるからついてなさい。教えてあげるわ」
「.......は、はい」
.......ん?
少し地の大人しさが出たような?
こ、このギャップは......!
危険な娘かも知れない。
胸の内が、ザワザワとする私だった──
輝さんも、似合い過ぎてソッチもモヤモヤする。
続く