クラス替えだけど...
入学式が始まって、新しい1年生がゾロゾロと体育館に入っていくのが見える。
高校に入ってもう1年が経つのかと思うと、ほんと早い。
大人になれば、時間がもっと早く過ぎるというから、今から恐ろしい。
不意に、1年生の大群の中からズームしたように、茶髪のツインテールの女の子と目があった。
女の子はニコッと笑いながら、また生徒の群れに流されていった。
──こんな感じだったよなあ。
1年前に、輝さんを見かけた時も。
私には、ひときわ目を引いたから。
さっきの1年生は、たまたまだろうけどね。
「ああ~おひいさん。一緒でありますように、一緒でありますようにい」
「だーいじょーぶだって、輝さん。心配しなくても同じクラスだって」
「そ、そんな事言っても、こればかりは努力が効かない領域の話しですから!.......ところで、おひいさん。なぜ呼び捨てにしてくれないのですか?」
「いや、普段だったら、照れちゃって。どうもまだ慣れなくて」
「.......そうですか。ここぞ?という時に呼んでくれるのですね?分かりました。期待して待っています」
変な期待をされてしまった。
ココゾって何?
うーん、幼なじみの腐れ縁の2人なら、抵抗ないんだけどなあ。
輝さんを呼び捨てにしたら、何故か背徳感がするんだよな?
呼んだら、輝さん仇っぽい目をするし。
狐目だから、余計に艶が出て惑わされる。
「おっ、日衣心。久しぶり」
「日衣ちゃん、豪松陰さん、もう見た?」
幼なじみの大事な腐れ縁の、夏海と見文。
いくら言っても、私を名前で呼ぶなあ.......。
この2人なら、別に仕方ないとも言えるけど。
「まだ見ていないのですが、おひいさんの自信が凄いのです。私は、クラスが一緒かどうかで1ヶ月前から、ずっとドキドキしていたんですが」
「アッハッハッハッ。大丈夫、大丈夫。日衣心のヒキは、ハンパないからね。私ら、小学生からずーとおんなじクラスだから」
「おひいさんって、日衣ちゃん!?ウケるw」
「見文!勝手にウケるな」
一気に、かしましくなった私達。
そろって、掲示板に貼り付けられたクラス表を見る。
輝さんは、おっかなびっくり目を背ける。
普段、あんな凛としてる人がなあ......。
うーん。
と、あった、あった。
2年C組。
阿部夏海
奏見文
塚良日衣心
豪松陰輝子
「ほ、ほんとに、みんな一緒だ.......」
「ねっ?輝さん」
「流石つーか」
「別段、何かした訳じゃないのにね。恐ろしいヒキよね」
色々言われてるけど、気にしない。
気にせずドヤ顔をする私。
輝さんが、思わずため息をつきながら、
「感服いたしました。おひいさんのメンタルと運の凄まじさは、やはり凡人のソレではありませんでした」
「うん。一応、勝負師だしねw輝さん、手を挙げて?」
「は、はい!?」
恐る恐る挙げた輝さんの手に、イエーイ♪と、3人でハイタッチする。
「2年でもよっろしくっ!」
「豪松陰さんヨロ!」
「あっ、はい。あのう、夏海さん、見文さん......」
ん?
と、輝さんを見る夏海と見文。
「私を、輝さんと呼んでくれないでしょうか?実は、自分の名字余り好きではないのです......」
「い、今さら!?プっ、アッハッハッハッ!」
「.......いいんだ。でも、輝さん。日衣ちゃんの事は私ら、おひいさんと呼ばない方がいいんだよね?」
顔が赤らむ輝さん。
顔に出てるけど、なんで赤いんだろ。
「.......はい。そのようにしていただければ」
「改めてヨロ!輝さん!」
「輝さん!呼びやすいよ!」
うん。
なるほど。
自分だけが呼んでいた呼び方というのは、特別なんだと、モヤモヤした胸で私は分かった。
だから私は、こっそり輝さんの耳に囁いた。
「これからもヨロシク。輝子」
あっ。
輝さんの耳が赤くなった。
続く