湯あたりに感謝!?
目の前に白い湯気がホカリホカリと浮いている。
目の玉がくもってきたらしい。
クラっと景色が揺れる。
私の頭が揺れているのか。
これ以上はいけないな。
お湯に入ったり出たりを繰り返して、誤魔化してきたけど、いい加減限界らしい。
タオルが入って、ドクターストップだ。
........さてと。
裸にバスタオル1枚の格好で、助けを求めて外に出る訳だがどうだろう?
最初に誰に会うか。
男だろうか、女だろうか?
まあ、このまま意識を失う訳にはいかない。
乙女のプライドは失うけど。
仕方ない。
「ふぅ.......いくか!」
決心して、体をお湯から起こす。
お湯から出たところで、膝をついた。
あっ。
けっこー、体思うように動かない。
ヤバイわ、これ。
「ちょっと、判断遅かったかなあ......」
お湯で熱くなった体に、冷たい床。
体は冷えていくのは分かったけれど、頭はボーとして遠くで声が聞こえる。
「塚さん!塚さん!!」
輝さんだ。
輝さんが来てくれた。
良かったあー。
た、助かったあ。
安心したら、余計体の力が抜けていくのが分かった。
目の前が、暗くなっていく。
失う最後の意識が感じたのは、輝さんの体温が温かい事だった──
──うん、部屋だ。
旅館の部屋の天井だ。
そして、輝さんの顔だ。
心配そうな顔。
私が目を覚まして、輝さんの表情が変わる。
「......良かった!良かった、塚さん!」
涙を流させてしまった。
ごめんねえ。
そんなに心配かけさせて。
私は輝さんの涙を指でぬぐう。
「ただの湯あたりだから、もう大丈夫だよ」
「分かってます!分かってますけど......!」
涙がポロポロこぼれる輝さんだった。
私は輝さんにお礼を言う。
「ありがとね、輝さん気づいてくれて。おかげで助かりました」
「塚さんが無事で本当に良かった......。でも私だけじゃないんです」
「乙女のプライドは守れたようだな、塚!」
脇からひょっこりと、小さな先輩が顔を八重歯の見える笑顔を覗かせる。
泣かせてしまった輝さんとは、対照的だ。
だけど、先輩らしくて嬉しかった。
「猿のヤツが、塚の浴衣とスマホをパクってたのさ!それをオレが奪い返したのよ!まあ、偶然なんだけどな」
「でも、その偶然に感謝しますわ。花知華先輩」
「だな、輝!塚に大事なくて良かった」
あれ?
輝さんと花知華先輩?
「共通の敵と、危機的状況。塚さんの恩人ですから」
「ふん。という事だ、塚!この事は、商店街の人らに言ってあるから、心配するな。明日は、初詣だぞ?塚、輝」
「気安いですね、先輩は」
笑いあってる2人を見て、あーなんかこれで良かったのかな、と思った。
2人が仲良くしてくれたら、私は嬉しい。
ただそれだけだ。
よかった。
安心したら、また体の力が抜けた。
うつらうつらと、夢の中に入っていく。
ああ、そうか。
明日、初詣か。
楽しみだなあ。
続く