お猿さん
私が、お風呂に入ってから1時間がたとうとしていた。
ヤバイな.......。
頭がボーとして、意識がはっきりしない。
熱いお湯に浸かりっぱなしではなく、露天なのでたまに体を寒気にさらして冷却する。
これ体に悪そう。
でも、所持品バスタオル1枚じゃどーにもならない。
最悪、恥を忍んで外に助けを呼ぶけれど.......。
それは、最後の手段。
しっかし、人1人入ってこないってなんて確率!?
おかしいなあ......運は良い方なのに。
おっと、クラッときた。
ブクブクと、お湯に沈んで泡を出す私。
「輝さん、助けて~」
──何故だろう、寝苦しさを感じて目が覚めた。
時刻は深夜2時を回ったところ。
年が明けたんですね。
暗闇の中、布団の隣を見ると寝ていたはずの塚さんがいない。
おトイレだろうか?
何か嫌な予感が私を覆う。
「考え過ぎかも知れませんが......」
私は少し待って、スマートフォンに手をかけて塚さんに電話をかけてみた。
チャララー♪
着信音が、思いの外近くで鳴った。
その方向を見ると、ガタリとスマートフォンが落ちる音がした。
何かいる。
小さな生き物が。
子供?
「せいやー!!」
その子供?に、花知華先輩が飛びかかった。
起きてたの!?
いつの間に!
でも、いいですわよ!
そのまま、賊を捕らえてくださいまし!
私は、部屋の電気をつける。
花知華先輩の腕を、スルリと抜けた賊は私の横を通過した。
毛深くて、四つ足のそれは.......。
「猿!?」
「ウキィ!」
トタタタターと、赤いお尻をこちらに向けて逃げてしまった。
.......良かった。
野生の猿なんて相手にしたくなかったですから。
「アイツなんか落としてったぜー?」
野生には野生の、花知華先輩が猿の落とし物を物色する。
浴衣に、スマートフォン?
誰かの?
..........!!
「そのスマートフォンのストラップは!」
先日、塚さんが私にくださったお揃いのストラップ、牛のデフォルメめされたキャラクターの「うーちゃん」がついていた!
ということは、このスマートフォンも浴衣も塚さん
の!?
今塚さんは、アラレもない裸!?
まあ、どうしましょ!?
.........ではなくて。
考えられるハプニングとしては.......お風呂!
あのお猿さんが、脱衣場の塚さんの浴衣を持っていった。
.......でしょうね。
「花知華先輩、お手柄ですわ」
「おっ。なんか知らんがヤッタみたいだな、オレ。塚がピンチだったのか?後輩」
塚さんへの応対で、この先輩に対しては警戒が解けなかったので、わざと名乗らなかったんですが。
「不承、一年の豪松陰輝子と申します。名乗らなかった無礼をお許しください、花知華先輩」
「応!よろしくな輝!やっと聞けたぜ」
「いきなり呼び捨てですか。塚さんだけに呼ばれたいんですが」
塚さんのピンチを救ってくれた恩人だ。
多少の事は目をつぶろう。
とにかく、塚さんのいるであろう露天風呂へと急ぐ私達だった。
続く