お一人様の年明け
「ふ、ふぇ!?」
ビクン!
跳ねる私。
脇腹が、くすぐったい。
目を覚ました私が目にしたのは、どこ、ここ!?
暗闇の中で、一瞬パニックになる私だが、落ち着いて、ああそうかと、ゆっくり理解する。
ここは旅館の客間で、宴会場ではない。
おそらく輝さんが抱き抱えて帰ってくれたのだろう。
後で、お礼言っとかないとな。
と思った時に、再度脇腹がムニュリと摘ままれる。
「う、うひぃ!?」
私の脇腹を摘まんでいる犯人は、輝さんだった。
私のすぐ横で、私の方を向いて寝ていた。
無意識の所業か......。
というか、近い!近い!
3組の布団が並べて敷いてあって、輝さん明らか私の布団に入ってきてるからね!?
花知華先輩は、........まあ。
想像通りの野生的な寝相で、部屋の隅で転がっていた。
「つか、何時だろ?今」
周りを起こさないようにスマホを見る。
輝さんが、少しピクリと動いたけどセーフ。
おっと、0時を回っちゃって、もう1時3分だ。
私は、小さな声で呟く。
「あけましておめでとう」
輝さんの、無防備な可愛らしい寝顔見ていると思わず、ツンと輝さんのほっぺたをつついた。
輝さんは、ウーン、ムニャムニャと、幸せそうな寝顔を見せながらも、寝ていた。
「さて、目が結構パッチリ覚めちゃったし、1人だけど、年明けの初風呂と行ってみますかあ」
ゆっくりと、布団から離れてバスタオルを用意して、抜き足差し足で部屋から出る。
渡り廊下ですれ違う人は少なく、この時間だけど結構外に出払っているのかも知れない。
大晦日だし、お参りしてるとか。
そして、なんなく脱衣場で浴衣を脱いで、タオルを
体に巻いて、露天の大浴場に入る。
人1人いなかった。
おおう。
貸し切り状態の、贅沢なお一人様だった。
キキィ!
誰もいないと思っているとこへの、何かの鳴き声?がして、ビクリと震える私。
湯けむりの向こうを、目を凝らしてよく見ると、赤い顔とお尻が見えて.......。
あっ。
猿か。
猿かあ、恐いなあ。
漫画みたいに一緒にお風呂入るとか、私は無理かなあ。
しかし、一匹のお猿さんは私の前から姿を消してしまった。
ま、まあ、ラッキー!?
お一人様状態に戻った私は、周りをキョロキョロしながら、お湯に浸かるのだった。
チャンポン
「ふぃ~極楽、極楽」
極楽って、こんなんかと夢想しながら1人湯船に浸かる。
肩と頭を寒気にさらして、胸から下は温かい。
遠い月を見ながら、去年の事を振り返る。
一年。
高校に入って、一年が過ぎた。
入学式の時に見かけた気になる女の子。
同じクラスになったけど、話すきっかけを失って。
半年が過ぎて、やっと知り合えて。
輝さん、塚さんと呼び会うようになって。
そこからの半年は、凄く濃密で。
濃密だけど、あっという間だった。
テスト勉強をして、
体育祭で輝さんが倒れて、
文化祭で先輩と知り合って。
楽しくて時間を忘れる。
というのは、こういうのを言うんだろうな。
たった半年なのに、思い返せば優しい気持ちになれる。
そんな思い出だった。
さて、今年はどんな年になるかな?
今から楽しみで仕方ない。
現在進行形で続いている。
1人でまとめて、お湯を出て脱衣場に戻る。
そして、かごを見て自分が危機的状況に置かれているのを知った。
「き、着替えの浴衣が無い!?」
塚さん、大ピンチ。
続く