姫々温泉
カラリ
体にバスタオルを巻いた私達は、露天温泉へのガラス戸を引いた。
ほどよい寒さで体が冷えて、早くお湯に浸かりたい。
夕暮れ時で、金星が顔を覗かせて、間が良かったのか、他のお客さんも余りいない。
「かけ湯をして。あれ、輝さん?桶ない?んじゃ、私ので、はい。ザバー」
「あん、あったかい」
........。
落ち込み輝さん、3割増しで色っぽいんだよなあー。
喉をゴクリとやりながらも、平常心を保ちながら、
「先にお湯浸かろ、輝さん。あったまんなきゃ、風邪ひいちゃう。輝さん、車酔いもあったしさ」
「はい。では失礼して」
足先をつけ、ゆっくりお湯に入る私達。
花知華先輩は、先に体と頭を洗っていた。
寒くないのか。
さすが野生の人。
ふんふ~ん♪
鼻歌混じりで頭洗ってる。
能天気でうらやましい。
私が花知華先輩の方を見ていると、輝さんが私の方を見ていた。
「.......塚さんは、先輩の事好きですね」
うーん。
少し考えたけど、思っていた事をそのまま言う。
「うん。なんか無茶苦茶だけど面白い人だし。でも悪い人じゃない。あ、後ねー。私、先輩後輩に憧れてたとこあって。だから騒がしいけど、この関係割りと好きかも」
「そ、そうですか.......塚さんは......!」
私は肩を並べて、隣にいる輝さんの片手を握る。
お湯に浸かっていて、握られた手は見えない。
私は輝さんの顔を見て話す。
「確かに憧れて好きな先輩後輩だけど。だけど、1番じゃない。腐れ縁の、夏海、見文も一緒にいるけど1番じゃない」
ギュッと、力強く輝さんの手を握る。
「私の中で、輝さんが1番だって。伊達に高校入ってから見続けてないって」
「......私、嫌われてない?」
「嫌ってたら手は握られないし。前、言ってくれたじゃない、輝さん。もっと仲良くなりたいって」
お湯の中で、指を絡ませる。
お湯の温度も体温も熱い、体も熱くなってきた。
「他の人と居ても、私の中心には輝さんがいるから安心してよね?」
「........ふふっ。うふふふ。失礼しました、塚さん。年甲斐もなく拗ねてしまって......。もう大丈夫!豪松陰輝子戻りました」
儚さが消えて、凛とした、元気な笑顔に戻った輝さんだった。
良かった!
やっぱり、1番の友達に誤解されるのはつらいよ。
伝わって、本当に良かった。
しかし、拗ねた輝さんは、色気3割増しなのは気をつけよう........。
私の理性を突き崩されかねない.......。
「オっレも混ぜろーい!!」
空中から、野生の虎だか猫が襲来してきた。
体を洗い終えたらしい。
ちぃ!
ピロータイムなのに!
体を動かさずに輝さんが、空いた手で大鉈の袈裟斬りチョップを振るった。
空中で迎撃された先輩は、ドボーン!と、温泉の藻くずとなった。
「ぬぅ。キレが戻ってやがる!塚!抱き締めたんか!?抱き締めたんか!?」
輝さん、再度チョップ。
今度こそ、静かになった野生児だった。
私達は、笑った。
顔が赤くてのぼせぎみの私達だけど、繋いだ手はもう少しそのままに。
あと少しお湯に浸かっていたかった──
続く