加賀のお宿
「着いたー!加賀のお宿、姫々温泉!」
「あーケツが痛てー。なんで塚は、そんな元気なんだ。オレでさえ半日、バスに乗ってるのは、辛いのに」
「我慢して、我慢して、着いた時のこの解放感!とか、達成感!みたいなの嫌いですか?花知華先輩」
「お前、本質的にMなのかもな......分からんもんだ」
私と先輩の後から、少し遅れて輝さんがゆっくりついてきた。
酔い止めの薬は飲んだけど、やっぱり具合いは悪そうで、大丈夫?と聞くと、
「ええ。塚さんにもらった酔い止めの薬のおかげで、だいぶ楽ですわ。ありがとうございます、塚さん」
儚げにシナを作らないで欲しい、輝さん。
妙な気分になるから。
若干、涙目してるし。
輝さんの魔性に耐えながら、平静を保ち、私達は、宿にチェックインした。
八百屋の政さんが、
「とりあえず、お嬢さん達は3人で一部屋使ってくれ。俺らは、大部屋使うから」
皆さん、年越しという事で家族連れの大所帯だ。
しかし、ほんとよく実現したな、この旅行。
運命の摩訶不思議を感じずにはいられない。
「しっかし、ラッキーだなオレも。卒業旅行が2回も行けんだから」
「.......そっか。先輩、3年だもんね。私とおんなじぐらいだからつい.......って、いった!痛い!先輩、痛い!」
「.......背の事は言うんじゃねえ。安心しろ、塚。お前も3年になっても、オレとおんなじぐらいだ」
「せ、先輩!な、なんつー呪いを!」
私にヘッドロックをする花知華先輩。
胸が顔に当たる。
胸は勝ったな。
ああ。
?
輝さんの突っ込み遅いな?
後ろの輝さんを見ると、
儚い表情で私達を見ていた。
「.......て、輝さん?」
「いえ、すいません。凄く楽しそうだったので」
な、なんか悪い事したー!
ほ、ほっといたワケじゃないんだ!
ペッ。
と、花知華先輩を引き剥がして、うっちゃって、輝さんのそばに行く私だった。
「つ、塚!お前、先輩を!」
「御免、輝さん!浴衣に着替えて、お茶でも飲もう!」
言葉無く、小さく首肯く輝さん。
いつも凛とした輝さんが、弱々しい。
「いえ、塚さん。車酔いもありましたから」
気を使わせてしまった!
せ、せめて、お茶を入れよう!
「うめー」
も、もう入ってる!
この先輩、自分だけ入れて!
「はい、輝さん。私達もお茶飲も!」
「はい、塚さん」
「........」
ズズー。
静かにお茶をすする音だけが、部屋に響いた。
........身に染みる沈黙だ。
ちょい、ちょいと、花知華先輩が私に耳打ちをする。
やはり、輝さんの突っ込みはない。
「おい塚。アイツの機嫌とれ。励ませ!」
「ど、どーやって!?先輩も何か頼みますよ!?」
「アホ。オレじゃ駄目だろ。お前じゃなきゃ駄目なんだよ。分かれよ、そこ。抱き締めてやんな」
「いや、それはちょっと......!」
「照れてんじゃないよ、ほんと。頼んだぞ!せっかくの旅行なんだから」
「はあ、わかりましたよ。」
私は、わざとらしく伸びをしながら声を張った。
「あー。とりあえず、1番風呂行こっかなー?輝さんも一緒に行こ?」
「は、はい」
「よっしゃ!3人で行くか!」
白い目を先輩に向ける。
話しの流れ分かってます?
ありったけのジト目を先輩へと向ける。
「だ、大丈夫!お邪魔しないから!」
ん。
よろしい。
先輩を先輩と思わない態度の私だった。
続く