魔性と先輩
旅行中のバスの中では、主に輝さんと花知華先輩が
喧々諤々としていたり、お菓子のポッキーをめぐる争いがあったりとして、賑やかに過ごしていた。
商店街のおっちゃん達もカラオケで、ヤンヤと盛り上がっていた。
そして、休憩の高速のパーキングエリアで、バスは
一旦停止する。
休憩である。
「........つ、塚さん。失礼します」
いつも、完璧なお嬢様のイメージを持ってる輝さん。
たまに完璧なイメージから外れる所作を見せて、ギャップで目を奪われる事もあるけど。
ともかく、彼女にも苦手な物があったのか......。
車酔い。
本人曰く、普通のバスはこんなに揺れるとは知りませんでした。
との事。
元とは言え、流石はお嬢様だっただけある。
どんな高級車に乗ってたんだ.......。
車内では私と席を代わり、輝さんは窓際の席でとにかく外を眺めていた。
私が心配して、大丈夫?
と、声をかけると青ざめた顔で、
「.......見ないで下さい、塚さん。今の無様な私を見ないで下さい.......」
と、苦しさと羞恥に顔を歪ませた輝さんの表情は、大変イケない気持ちになりました。
はい、エロかった。
「うへへ、塚ー!さっきのポッキーウォーのお返しだー!っ、ぐふっ!?」
「あははっ!くすぐったい!花知華先輩駄目ですよー♪」
私の体を触りまくる花知華先輩に、輝さんの慚愧の手刀が決まる。
流石、師範代.......。
車酔いの苦しさの中、一撃決めて見せた。
でもこれ、合気道関係ないな。
花知華先輩が、伸びて私の膝の上で転がった。
「.......へんじがない。ただのしかばねのようだ」
私は、花知華先輩の髪を手ですいて撫でた。
すごい猫っ毛の、クセ毛で、お手入れ大変そう。
うん。
お手入れしてないな、この人。
でも変に見えなくて、似合ってる。
野生的な小さな虎のような、花知華先輩にはぴったりな気がした。
むにゃむにゃ。
と、膝でゴロゴロとするその姿は、虎というより可愛らしい猫だ。
喉元を撫でたくなる。
いけない、いけない。
そっと、輝さんを見るとグッタリしていて、私の周りは静かになった。
──そしてパーキングエリアに戻る。
「塚さん、駄目、駄目です!ついてきちゃ駄目!」
「心配なんだよ、輝さん!」
「止めろ塚。1人で行かせてやれ」
トイレに駆け込もうとする輝さんに、ハア、ハア!と、息も荒く興奮しついていこうとする私を、花知華先輩に止められました。
先輩が、止めるって珍しい......。
「ちょいとは、乙女心を汲んでやりな、塚」
セクハラ常習犯の人に言われても。
まあ、でも止めてもらって助かった。
私の理性が変になってたから。
「まー、人をおかしくさせる素質はありそーだけどな」
あ、先輩から見ても魔性なんだ。
輝さん、恐るべし......魔性の女確定!
なんだ、私がおかしいのかと。
「塚、ニヤついてるけど、ほどほどにな?お前は、タガが外れたら色々やり過ぎそうだ」
「は、花知華先輩に言われるなんて!」
「ま、オレの目に止まるって事は、お前やっぱオレの後輩だ」
認定されてしまった。
先輩・後輩の関係は、嫌じゃないけど。
むしろ、先輩がいてくれて嬉しい。
そうこうしていると、輝さんが青ざめてはいるものの、多少すっきりした顔で戻ってきた。
私は、輝さんに酔い止めの薬を渡した。
「はい、輝さん。そこの売店で買ってきた。ちょっとはマシだと思うよ?」
「ありがとうございます、塚さん」
「魔性なんだから、気をつけろよ?」
身長差のある、輝さんのチョップだけどキレが悪かった。
花知華先輩が、猫の様に避けてみせてニヤリと笑った。
「今ならイケるな!」
どこにだよ。
続く