温泉旅行いざ出発
「よっと。行ってきまーす」
『行ってらっしゃい。よいお年を、日衣心』
「ねーちゃん、おみやげ忘れんなよ!」
インフルエンザで寝込んでから、1週間。
治って、なんとか温泉旅行に間に合った。
家をでるところなんだけど、翼のヤツ.......。
どんなおみやげにしてやろうか?
木刀とか。
そして温泉旅行なんだけど、今日は31日大晦日。
二泊三日で年越しも含めてと相成った。
そんなに急に、宿の予約が取れるのか?
というと、団体さんの予約がちょうどキャンセルが出たとか。
ツイてる時はツイてるんだね。
まあ、そんなとこで家を出て待ち合わせ場所に向かっているところ。
コロコロとキャリーバックを転がして、ああ、居た居た。
スラリと高い身長の、輝さんが目に止まった。
輝さんもこちらに気づいたようだ。
「おお!お久しー!輝さん!」
「塚さーん!回復してご無事で何よりです。良かった」
弾けるような笑顔で、輝さんが出迎えてくれた。
これだけ歓迎されるのも嬉しいもの。
いやー会うの1週間ぶりかー。
「うん。クリスマスは御免ね?」
「いえ。その分、この温泉旅行で楽しみましょう」
へへへっ、と笑う私達の脇から小さな先輩が入ってくる。
花知華先輩だ。
モコモコしたダウンジャケットを着て、その口からは、八重歯を覗かせる。
あら、可愛い。
「よー塚!今日は感謝しろよー?オレがいたから、おっちゃんの馬券が当たったようなものだからな!」
「負けたのは悔しいけど、その通りですね。ありがとうございます、花知華先輩」
「勝ち逃げですか、花知華先輩」
私と、花知華先輩の間にスッと入り込む輝さん。
なんかボディーガードみたいな動きだった。
「おっ、いい動きだ後輩。これじゃ、塚にセクハラが出来ねー」
「やっぱりですか、先輩」
........やっぱりなんだ。
私は隙が多いのだろうか?
いや、師範代クラスの輝さんと、野生児みたいな花知華先輩に比べると仕方ないような気もする。
バチバチと、笑顔で視線を交わしている2人を見ていると、プルリと寒気がした。
「おーい。バチバチしてるとこ悪いけど、バスに乗ってくれなー。そろそろ出発するでなー」
八百屋の政さんに声をかけられて、貸し切りバスに乗り込む私達。
荷物を預けて、座椅子に座る。
輝さんを真ん中に据えて、両サイドに私と先輩が座る。
「ちぇー。オレの隣、後輩かよー。つまんねーよー、塚を寄越せー」
「あげません。やり過ぎるから、危険なんです貴女は」
私は一体、2人のなんなんだ。
苦笑しながら、2人を見る私。
持ってきたお菓子を早くも開封する。
「まあまあ、2人とも。お菓子でも摘まんで、ゆっくり行きましょう。長旅なんですから」
「塚さん、頂きます」
「おっ、ゴチ」
花知華先輩が、ガブリとポテチを大量にかぶっていった。
私とおんなじぐらい小さいのに、口の大きさは負けた.......。
輝さんも、むぐぅ!
と、していたがここは張り合えない。
そして、バスは高速道路へと乗っていく──
続く