決着。の続き
「さあ、第4コーナーを回って、後続から各馬がいっせいに逃げる8番ソラタカクに襲いかかる!そして最後の直線に向かう!」
逃げているソラタカクに、つけている先行は花知華先輩の、ダブルスピール!
中団外に、輝さんのステイシルバー、その後ろに私のスペシャルマンデー!
「よっしゃ行け!抜いちまえ、ダブルスピール!」
残り600mを切った!
まだだ!まだ逃げたソラタカクが粘る!
そーなんだよ、この馬二枚腰使うんだよ。
「残り400m!ここで、ジワリジワリとダブルスピールが、先頭に立った!しかし抜かれたソラタカクも、内で懸命に粘る、粘る!後続から追ってくるのは、ステイシルバー!そしてスペシャルマンデー!」
「差せー!!」
「そのままー!!」
「アカーン外れたー!」
走研の会室は、阿鼻叫喚の熱気のるつぼに落ちていた。
静かに固唾を飲んで見守っていたのが、みんなもう声を張り上げて、大興奮だった。
私も声を我慢出来なかった。
「スペシャルマンデーいっけー!末脚見せろー!!」
「坂を駆け上がって、残り100m!ここで完全に先頭に立ったダブルスピール!しかし、音速の末脚で2頭突っ込んでくる!ステイシルバーとスペシャルマンデーだ!」
絵に描いたような、ドンピシャの展開だった。
しかし、後0.1秒。
0.1秒のズレが、勝負を決定づける。
「勝った、勝った!ゴール!!勝ったのは、ダブルスピール!海外の刺客ゥー!2着には、粘りに粘ったソラタカク!3着に、ステイシルバー!そしてハナ差で、スペシャルマンデー!」
........負けた!
少しの間なんだろうけど、声も出ない。
輝さんも小さく息を吐いた。
花知華先輩は、ガッツポーズをとっていた。
これが競馬。
絶対は無いのだ。
そう、絶対はない。
「あ、当たったー!!三連単10400円!」
「んだよ、政さん万馬券じゃねーの」
「いや、10000円買ってたんだよ......」
ザワついていた会室がシンとなる。
一瞬だけ。
いいよね万馬券。
10000円の、100倍?
「って、ええええーーー!!!」
その場にいた全員が、声を揃えて上げた。
ひゃ、百万馬券.......。
ドヨドヨと、いななく観客たち。
「いやー、お嬢さん達の馬も入れて買ったら、当たっちゃったよ。こんなことあんだなあ」
「政さん!こりゃ、商店街の慰安旅行どこ行くよ?」
「お嬢さん達のおかげだろう?けちっちゃダメだよなあ?」
「そーゆー風に言われちゃ、仕方ねーなー。まあ、あぶく銭だしなあ。あー、ちくしょう!パーと行くか!温泉旅行!!」
ワアッ!!
と、盛り上がる一堂。
私達の勝負は二の次になっちゃってるけど、お祭り騒ぎだもんな。
興の醒める事は言わない。
「オレも!オレも行っていいのか!?」
花知華先輩がねだる。
八百屋の政さんが、
アンタのおかげだ、バッチコイだ!
と、威勢を振るう。
負けたけど、なんか温泉旅行編に行くみたい。
ラッキーなのか?
隣の輝さんをチラリと見ると、
「........塚さんと温泉!.......塚さんとお泊まりの旅行!」
うん?
平常運転?
分からないけど。
「おっしゃ!後輩たち!負けたんだ!オレの言う事聞いてもらうぜー?」
不敵な顔で、ドヤ顔の花知華先輩。
輝さんも私も、青ざめる。
え、えらい人が勝ってしまった.......。
続く