思わぬ来客
花知華先輩のお化け屋敷を出て、ひとしきり校内をふらついた私達は、自分たちの走研のある学舎に戻ってきた。
閑散としていた。
まあ、マイナーな同好会の質素な展示だ、仕方ない。
椅子に座って、今日のメインイベントの大日本杯の発走の時間まで待つ。
こんなもんかあ......。
と、片ヒジをついてボーとしようとした矢先。
1人の20代ぐらいのスーツの男性が訪れた。
あっ!
「陣海さん!」
「やあ。お嬢さんに、塚良さん。見に来ました」
輝さんが師範代を務める、合気道の道場に通っている、陣海さんが来てくれた。
私は横にいる輝さんの顔を見る。
「はい。声かけちゃいました♪」
やっぱり!
ボーと、しようとしていた私だったけど、なんにせよ初めての来訪者。
私は俄然色めきたって、陣海さんを接待する。
「よく来てくれました!これを、どうぞ。今日の新聞です」
「......ん?あははっ、これは凄いね。この競馬新聞、お手製?」
「はい!私と輝さんの手作りです!」
陣海さんに渡したチラシのような1枚の競馬新聞。
大日本杯の出走各馬が枠から順に記載されている。
脚質から、近5走の成績、ジョッキーの名前。
私と輝さんの、予想印を打ってある。
「.......凄いな。まるで本物みたいな競馬新聞だ。好きなのがよく伝わってくるよ。塚良さんの予想は13番のスペシャルマンデーで、お嬢さんの予想が10番のステイシルバーなんだね?」
「はい、負けたら、勝った方の言う事1つ聞くで!」
「あははっ。大人じゃ、出来ない約束だね。面白い」
「いやあ。でも陣海さんが来てくれたので、来客0は免れました。よかった、はははっ」
「ん?いや、0どころか、これから......」
ガラリ!
引き戸が開いて、見たことあるおじさんがズカリ!と、入ってきた。
「いよう!お嬢様!来たぜ!」
あ、思い出した。
商店街の八百屋の政さんだ。
「お嬢!」
「お嬢様!」
「来たよ~」
後から、ズラリズラリとおじさんとおじいさん、子供も入ってくる。
狭い会室が、瞬く間に一杯になった。
私は、もう一度輝さんを見る。
「......いえ、塚さん。私が声をかけたのは、陣海さんだけです」
「水臭いぜ、お嬢様!噂を聞いたからには、応援しにお邪魔しましますぜ!」
ウオオオオー!
盛り上がるギャラリー。
輝さんが、陣海さんを見る。
あ、陣海さんが目をそらした。
大人なのに。
輝さんは、ハーと小さく息を漏らし、私に謝る。
「ごめんなさい塚さん。私のせいで、学校なのに、こんなに商店街の人を集めちゃって」
「大丈夫!大丈夫だよ、輝さん!いないよりいいし、これだけのギャラリーの前で競馬を見れて、予想勝負が出来るなんて......」
「勝負師冥利に尽きる!!」
「......塚さん!ふふっ、ふふふ。いいですわ。私も燃えてきましたわ、塚さん!!」
「うん!やろう!勝負だよ、輝さん!!」
私達の闘志に、おじさん達も熱くなる。
配られた競馬新聞に、自前の赤ペンでグリグリと印をつけ出すおじさん達。
あーでもない、こーでもないと、言いながら。
そして、大日本杯の発走が近付いてきた──
続く