文化祭
体育祭に続いて、文化祭も寝坊しそうになったけれど、なんとか遅刻せずにすんだ(ありがとう弟!)
そして今、私と輝さんは教室を出ようとしている。
夏海と見文は、クラスの出し物でクラシカルな喫茶店を手伝うので、教室に残った。
「日衣心も豪松陰さんも、いいなあ。文化祭は、わたしら体育会系さぼれない」
「まあ、交代時間に私らも回りましょ」
そして、ニマニマと私と輝さんを生暖かい目で見守ってくる、夏海と見文だった。
何を期待してる......。
足早に出ていく私達に、もうひと声かかる。
「競馬対決2人とも頑張んなよ!後で見に行く!」
「ありがとう!また後で!」
「失礼します。夏海さん、見文さん」
夏海と見文に見送られて、輝さんと横並びになる。
こうして横に並んだら、輝さんの姿勢の良さを再確認する。
スラリと伸びた輝さんの背筋は、なんだか触れたくなるようだけど、軽々に触れてはいけない気がする。
腕を後ろ手で組んで、せめて釣り合わないまでも、みすぼらしくないように、私も背中を伸ばした。
「さて、とりあえず何かお腹に入れておきませんか?輝さん」
「そうですね塚さん。私の本命はデザートなので、甘いモノ以外でお願いしますわ」
「yes.sir!」
目についた所から、焼きそば、たこ焼き、はし巻き、お好み焼きと、はしごした。
ムグ、ング!と食べ干して。
1人よりも2人。
色々分けて食べれば、色々な種類が多く食べれる。
そして、お腹はいっぱいではあるけれども、甘いモノは別腹という事で、輝さんの本命のパンケーキを前にしていた。
「.......ああ!生クリームの甘味!」
輝さんが恍惚としていたので、スマホでカシャリと1枚撮った。
写真を撮っとくのもいいかも?
いつか思い出を振り返える時に。
「ずるいです、塚さん。私も塚さんと1枚撮りたいです!」
甘味を味わいながら、輝さんが言う。
はいよ。
と、スマホを遠ざけて、輝さんと2ショット。
あっ、輝さんのほっぺに生クリームついてる。
指で取ってペロリ。
うん、程よいいい甘さ。
あれ?
輝さんが動かない。
どうしたというのか。
そんな仮死状態の輝さんを連れて、学校内を見て歩く。
3年生の模擬店で、お化け屋敷があった。
うん、外から見てもだけど、なかなか雰囲気あるな。
「輝さん、輝さん。お化け屋敷どう?」
「ハッ!今まで私は何を!......お化け屋敷。塚さんとお化け屋敷......」
怖そうで、楽しそうなんだけど、輝さんがフリーズ状態から復活したと思ったら、真剣な表情でブツブツと言っていた。
「あ、後ろで人待ってるから、とりあえず入っちゃお輝さん」
輝さんの手を取って、暗い教室の入り口に立つ。
受け付けの男の先輩が、迎えてくれる。
「2名さん、いらっしゃい。暗いからゆっくり進んでね」
あっ、はい。
と、ゆっくり輝さんの手を引いて暗がりの中へ進む私。
あっ、いけない。
「ごめん、輝さん、流れで入っちゃって。手も勝手に繋いじゃって」
「.......構いません。全然、私は構いません.....」
慌て、繋いだ手を離そうとしたけれど、輝さんが私の手をギュッと握り返した。
んー、じゃあまあいいのか。
でも、輝さんの手凄い熱いね、熱でもあるのか心配なる。
体育祭の時の事もあるけど、そんな病弱なイメージなかったけれど?
「輝さん、体調大丈夫?」
「だ、大丈夫です!ただドキドキしてるだけで......」
.......そっか。
このお化け屋敷けっこうイイ線いってるもんな。
私も少しドキドキしてるし。
よし、全力で楽しませてもらおう!
暗くてよく見えない角を曲がろうとした。
何かが、トンと胸に当たる。
「うぇああうぉおおおーー!!」
ひいいいいい!!
胸に人らしい頭がくっついて、私と目が合う!
緑色の顔をした、ゾンビ!!
「うぇああ!うぉお!うぉう!」
その緑色の身体をしたゾンビが、私の胸を顔でグリグリしてくる。
なんだか、ゾンビが嬉しそうな表情をしている気がするのは気のせい?
って、あれ......?
フツーにセクハラじゃない?
その時、瞬発的に後ろにいた輝さんが動いた。
私を抱きしめていたゾンビの右手首を捻り上げ、床にゾンビを押さえつけた。
一瞬の出来事だった。
そして、少し明るい場所だったので、ゾンビの顔が
見れた。
見た事ある顔だった。
「は、花知華先輩!?」
「よ、よー塚!はっひっふっへ、アイタタタ!は、早く、これなんとかしてくれ。顔見知りの後輩、脅かしただけなんだよ」
「明らか、貴女のはやり過ぎです。後輩といえど、セクハラはしていい道理はありません」
輝さんの狐目が、大きくつり上がっていた。
怒ると輝さんこんななんだ。
じゃなくて!
「いいよ!輝さんもういい!花知華先輩を放してあげて、悪意も無いから」
「塚さんが、そういうならば」
輝さんが、極めていた腕を外す。
花知華先輩は、オーイテ!と腕をさする。
「いやー、塚。お前、オレと背丈おんなじぐらいなのに、胸けっこうあんのな」
バシリと、輝さんのチョップが決まる。
身長差もあって痛そうだ。
と、とにかく、後ろもお客さんで詰まってるみたいだし、退散しよう。
「花知華先輩!私達、B校舎の4階で、走研の出し物するんで、手が空いたら見て下さい!」
「こなくていいですから。こなくていいですから」
噛み合わない私達を残して、暗がりでオー♪と私達に手を振る花知華先輩。
輝さんの手を握って、少し前を歩く。
「助けてくれて、ありがとね♪輝さん」
いえ、とんでもありません。と、謙遜する輝さん。その暗がりから出てきた輝さんの顔は、やっぱり赤く染まっていた。
私達は、そのまま手を繋いで、校内をプラプラと散策した──
続く