フォークダンスと貧血
輝さんと、夏海と見文と。
クラスのみんなで応援して、競技して。
体育祭も、そろそろ終盤だった。
後は、3年生のフォークダンスで、閉会式か。
勝負で負けて、怪我をして、初めて保健室にいって色々あったけど、あっという間だったなあ。
夕暮れが近くなってきた、秋の空に男女のフォークダンスがセッティングされて、風物的な感じを受けていると。
「おっ!一年坊。怪我大丈夫か?ていうか、ちょうどいい、助かった。こっち、こっち」
「はい?私?花知華先輩?ちょっと、ちょっと」
私は、急に前に現れた花知華先輩に手を引かれて、連れていかれた。
夏海と見文も、呆気に取られて。
輝さんは、まさか!?まさか!?と、絶望したような顔でこちらを見ていた。
かくして、何故か3年生だけのフォークダンスの中に、私もいた。
しかも、飛び入りで。
私、躍りしらないっつーの。
私を引摺りこんだ、張本人の花知華先輩と身体を引っ付けていた。
おんなじぐらいの背丈だから、ちょうどいい......じゃなくて!
「わ、私、男パートなんですか?先輩!」
「うん。ウチの男子1人が足つっちゃってな。可哀想に、2年待ったのにー!!って絶叫してたぜ。まー、年上の女性に翻弄されてこい、男役」
「私、.......男役なのか。花知華先輩に言われるの、凄い違和感」
音楽が鳴り出した。
私は、花知華先輩の動きに合わせて、手を合わせ、クルリと回り、足をバタバタさせた。
「おっ。飲みこみ早いな一年坊。呼んで正解だったぜ!」
「塚良日衣心です!センパイ!」
「ハッハッハッ!またな、塚!」
花知華先輩と離れ、次々と女先輩達とフォークダンスを順番に踊る私。
「あら、可愛い男の子ね」
「お名前なんて言うの?」
再三にからかわれた私だった。
いや、でも男子の先輩と踊るよりは、ハードルましかな?
しかし、めくるめくの魅惑のフォークダンスだった。
「ふぃ~終わったー!お待たせ~。ありょ、夏海、見文、輝さんは?」
「フォークダンスをしている日衣心を、凄い顔で見てたら、顔が青ざめて、.......違う.......こんなの違う!
ってブツブツ言って、倒れたから委員の人に頼んで、保健室に運んでもらったよ」
夏海に聞いて、えらいこっちゃと保健室へ急ぐ私。
なんで夏海と見文行ってあげないのよ?
と聞いたら、
「いや、日衣心行かなきゃ駄目だろなあって」
なんじゃそりゃ。
私の前に委員の人がいて、
「大丈夫、只の貧血だから少し休んだら、戻っていいよ」
委員の人も忙しいなあ......。
お礼を言って、ベッドで寝ている輝さんを見る。
もう意識は戻っているけど、何故か恥ずかしがって、シーツを被っている。
「ご、ごめんなさい塚さん。私は、その、フォークダンスをする塚さんを見ていたら......」
シーツの中から、輝さんのか細い声が聞こえてくる。
「......悔しいやら、......妬ましいやら、」
私は、輝さんの被っているシーツを引っ張って、剥いだ。
そして、輝さんを自分のその胸に抱きしめた。
輝さんは、びっくりして固まっている。
身体がガチガチだ。
「つ、塚さん、なにを.....!?」
「おわび」
「.......おわび。ですか?」
「みんないるけど、輝さんが私の一番って事」
「今?.....ですか?」
「今だけじゃなく、これからも」
「.......塚さんもっとぎゅってして」
「輝さん、痛い」
輝さんが、力強く私の腰を抱きしめる。
「ごめんなさい塚さん。でも」
完全に見えた輝さんでも、不安になるんだな。
私が原因なのか。
うれしいような、誇らしいような、恥ずかしいような。
「不安にさせてごめんね、輝さん」
輝さんの背中をさすると、強張ってガチガチだった輝さんの身体の力が抜けた。
私は、輝さんの背中をなで続けた。
「.......ん!」
輝さんから、なんだかイケない声が漏れたので、私は手を止めた。
あーこれ、夏海と見文に絶対見られちゃいけないなーと、頭の端に浮かびながらも、私は身体をモジモジさせた。
なんだか私まで、妙な気分になりかけた。
でも、輝さんがゆっくり身体を離す。
危なかった......。
「も、もう大丈夫です、塚さん。お世話様でした」
「輝さんも以外に甘えただねえ。危なかったよ」
「危なかったんですか?」
「なんでもないよ?」
口走った事を即座に否定する。
輝さんが流し目で見てくる。
さっきまでの不安定さは、どこいった。
小悪魔輝さんが、また出てきた。
「まあ、あんなダンスで気が動転するなんて。失礼しました、塚さん」
「3年になったら踊ろーね♪輝さん」
「また塚さんは、そういう.......。嬉しいんですけどね」
横を向いた輝さんの頭を撫でたくなった私だった(撫でた)
続く