遅い昼食と裏庭
広い校庭の体育祭の会場から離れた裏庭。
私と輝さんは、そこで再び昼食を取っていた。
お昼ご飯は、持久走のために抑えて食べたので、現在進行形で2人ともお腹ペコペコだったのだ。
「........」
「........」
食事中は、静かにしなさいとかじゃなくて、保健室での事が頭を占めていて、なんというか。
思い出して反芻していた。
輝さんの胸、柔らかかったなー
気持ちよかったなー、て。
「.......ほんとうに」
横を見たら、輝さんが片手を頬に当て、やはり何かを反芻しているように、うっとりとしていた。
うーむ。
輝さんも、だった。
「あー、やっぱり思いっきり身体を動かした後のお弁当って、美味しいね。これは小さい時から変わらないや」
「塚さんは、本当に美味しそうに食べますね。なんだかつられて私も、美味しく食べれます」
「えっへっへっ。それは結構言われる」
ポリポリと沢庵をかじる。
ちなみに、持久走を走る前に食べたのは、2人ともバナナだった。
どんだけ、本気。
そして今、私はお弁当で、輝さんはいつものようにパンだった。
「輝さん、いつもパンだね。そして大体焼きそばパンは欠かさず入ってる」
「焼きそばパンは外せません。これだけは私の鉄板?というパンです。私も家が普通になってからは、不精になりました」
「あははっ。輝さん、焼きそばパン好き過ぎwでも輝さんのお弁当ってのも、いつか見てみたいね」
「そ、それでは」
「ま、学校じゃ、グループも別れてその機会は無さそうだけど.......って、輝さん?」
「い、いえ、なんでもありません」
何か言いかけた輝さんだったけど、被ってしまって聞けなかった。
また少し無言になって、周りの景色を見渡して、ご飯をついばむ。
時折吹く秋風が、体温をちょうどよくしてくれる。
しかし、周りをよく見ているとカップルが多いような.......。
うん。
秋風が頑張ってる。
「カ、カップル多いねー。輝さん、彼氏いる?」
「彼氏はいません。婚約者がいましたが、破談になりました」
思いの外、重たい会話になってしまった。
.......どうしよう。
「こ、婚約者って、凄いね。彼氏より先にそれなんだから、さすが......」
「塚さんは、彼氏いるんですか?」
私の目を真っ直ぐに見て、輝さんは真剣に聞いてきた。
ふざけちゃ駄目だと思って、私も輝さんの目を見る。
「いないよ。中学生の時に好きだった子はいたけど、今はいない」
「.......そうですか。よかった......」
私の答えに、心底ホッとしている輝さんなんだけど.......。
「いや、輝さん!よかったって、どーゆー意味!?」
「え、えっと!いい意味で、というか、私にとってというか!す、すいません塚さん!失言です、忘れて下さい!」
珍しく慌てた様子の輝さんで、私もさして怒っていないけど、ノッてみた。
恋人はいないけど、今は全然いいかな?
と、思う。
輝さんいるし。
夏海と見文も。
「わ、私は、塚さんがいれば!」
「輝さん、同じような事思わない!」
ククク!
アッハッハッ!
と、大口を開けてひとしきり2人で笑ったら気がついた。
周りの、カップルの生徒達の空気を乱していた事に。
「し、失礼しました~」
靴を脱いで後にしそうな具合で、その場から離れた。
まあ、遅い昼食も食べきった後だったし、戻らないと夏海と見文に怒られてしまう。
私と輝さんは、観覧席に戻ってくる。
その夏海と見文が、呆れながら出迎えてくれる。
「遅いよー日衣心、豪松陰さん」
「まーた、2人でイチャイチャしてたのか」
『イチャイチャしてません!』
私と輝さんの息の合った一言に、夏海と見文は、ゲタゲタと大笑いだった。
否定するよりも、恥ずかしかった。
私も輝さんも、顔真っ赤にしてひとさし指とひとさし指をツンツンする体だった。
続く