花知華先輩と保健室
ガラリ!
保健室の扉が勢いよく開いて、中から保健の先生が飛び出してきた。
「おっと、そちらも怪我人か。でも、それくらいなら......君、体育祭の委員の子だね?悪いが、こちらの手当ては頼んでいいかな?」
「上等。先生もオレに任せて行きなよ」
「ありがとう。助かるよ」
保健の女医先生は、風の様に出ていった。
保健室に残されたのは、私と輝さん。
そして、肩を借りている花知華さんの3人だけだった。
「さて、んじゃ治療するか。さっき来る途中水で流したからっ消毒液で消毒する前に」
ベッドに座らされた私。
擦りむいた膝を前にして、しゃがんで花知華さんが
私の擦り傷をペロッと、ひと舐めした。
「ひゃう!?」
何してんだこの人。
なんで私の傷舐めてんだこの人。
舐めてんのか!?
ああ、舐めたのか.......失礼。
急な余りの出来事に、思考が錯乱した。
思考が錯乱したのは、私だけではなかったようで、
べちん。
輝さんが、花知華さんを結構強めにドツイていた。
顔が素で、怒りのオーラが輝さんの全身から出ていた。
あ、熱い。
「いたあ~。お前、これでもオレは3年生の上級生だぞ~。はたかれるとは思わんかった。テテ.....」
「上級生なら、上級生らしくして下さい。分かりましたか?花知華セ・ン・パ・イ?」
「クククッ!悪かった、悪かった。もうちゃんとするし」
先輩だったんだ。
花知華先輩かあ......。
一人で会を立ち上げたから、先輩っていないんだよなあ。
先輩って、私にとって貴重な存在だ、変な人だけど。
会ったばかりの後輩の膝舐めてるしな。
ヒョイ、ヒョイ♪と、消毒してガーゼを張り付けていく、花知華先輩を見ている私を見て輝さんが、
「.......塚さんのバカ」
な、なんで!?
ぼそりと呟いて、ソッポを向いてしまった輝さん。
な、何故に?
それを聞いて花知華先輩は、やはりクックッと笑って治療は終わった。
「ほらよ。治療完了♪中々いいガッツだったぜ、一年坊。オレをはたいた方、後は任せていいか?」
「はい。先ほどは失礼しました」
「いや、面白かったからいい。またな」
「ありがとうございました!花知華先輩」
「またな、はご遠慮致します」
ん?
輝さんと食い違った?
そんな私達を残して、小さなオレっ娘、花知華先輩は、保健室を出ていった。
外の体育祭の歓声が、聞こえてきてそれが逆に保健室の静けさを、際立たせていた。
私は寂しいのは嫌いだけど、静かなのは嫌いじゃない。
輝さんと2人だけだけど、別に気詰まりもない。
輝さんに話しかける。
「輝さん。別に止まらないで、私を置いて走っちゃってよかったんだよ?」
レースの事を振り返って聞いてみる。
「ええ。勝負に、綺麗汚いはありません。ですが、私は気持ちよく勝ちたかったのです」
うん。
私が続行するまで待って、そこからぶっちぎったもんね、輝さん。
.......ん。
「さすが、私が見続けた輝さんだ」
私が笑うと、輝さんは照れたように横を向く。
輝さんが照れる。
違うよ?
見続けてたから分かるけど、輝さんのアクションではレアなんだよね、照れるって。
輝さんは照れたまま私に聞いてくる。
「負けたら、なんでも言う事を聞く。塚さん、今いいですか?」
おっと、今か。
油断したな。
もっと間が空くと思っていたから。
「いいよ?で、何する?っ!!」
見上げた私の顔を、白い体操服のシルエットがおおった。
「ぎゅって、させて下さい......塚さん。あんな人が出てくるから」
「.......て、輝さん。ムッガッ!」
輝さんの胸と自分の顔の間に隙間を作り、空気を確保してやっと落ち着く。
........や、柔らかい。
私は、輝さんに抱きしめられていた。
「こ、これ、どれぐらいする?輝さん.....?」
「私の気がすむまでです......」
むぐっ!もがっ!
と、輝さんの胸でもがきつつ、輝さんの汗の匂いがして、別に嫌じゃないな。
むしろ、いい匂い?
とかやってると、一旦引いた汗がもう一度かいてくる。
まあ、熱いな。
熱くなってくるわな。
と、まあ輝さんの気がすむまでの間に、誰か来ない事を祈りつつ、胸の中でもがく私だった──
続く