輝さん塚さん
キュッ、キュッ。
ワイワイと昼休みの皆がお弁当を広げる中、その黒板消しの音だけを耳が拾った。
背中に、豪松陰さんの胸が当たる。
大きい.......。
じゃなくて、どうするか?
返事しそびれて、まだ何も言えてない。
.......どうしよう、どうしよう!?
とやきもきしていると、豪松陰さんがスッと場所を移動して、
「ごめんなさい。体がくっついて窮屈でしたよね」
フフフッと片手で口元を隠しながら、豪松陰さんは笑った。
私は、焦ったせいもあったのか、盛大に噛んでしまった。
「い、いえ!はじめましゅて!豪松陰しゃん!」
「そうでした、挨拶していませんでしたわね。クラスメイトでしたけど会話するのは初めてでした。初めまして、よろしくお願いいたします、塚良日依心さん。豪松陰輝子と言います」
噛んで顔が赤くなる私。
だけど、馬鹿にする事もなく豪松陰さんは、慈しむ様に会釈する。
見た目の上品な印象の豪松陰さん。
見た目以上の丁寧な挨拶だった。
私は、ちゃんと挨拶を返そうとしたけど、テンパって、また噛んだ。
「あ、頭を上げてくだひゃい!クラシュメイトでしゅから!というか、てしゅだってくれて、ありがとうございまひゅ」
やっとお礼を言えた。
噛みすぎて、死にたくなるけど。
豪松陰さんはやっぱりサラリと微笑みながら言う。
「どういたしまして。いえ、塚良さんとおしゃべりしてみたかったので、ちょうどいいチャンスだと思いましたから、お気になさらず」
そ、そうなの!?
私だけじゃなかったんだ!
嬉しいなー。
嬉しくて、まともに顔を見れない私。
うつむいて、多分ニヤけているだろう顔を隠そうとする。
そんな私を知ってか知らずか、豪松陰さんは続ける。
「喋った事がないのもあるんでしょうが、何故でしょうか?貴方の事が気にかかるんです。なんともない時に、ふと目に入るといいましょうか?」
私もです♪気が合いますねー!
.......なんて心で叫んで、本当に言える訳がない私だった。
いいの。
それ言えたら私じゃない。
「ですからひとつ夢が叶って嬉しいですわね♪」
ま、まぶしい!
なんてケガレの無い笑顔なの!
パアーーーーと後光が差しているような気がした。
私なんかが口をきいていいんだろか?
とにかく、もう一度お礼言っとこ。
「ご、豪松陰さん.......」
「あ、塚良さん。そのう......。輝子と呼んでいただけないでしょうか?ここだけの話しにしてほしいんですが、私は自分の名字が余り好きではないのです」
微笑みながらも、少し困ったように笑う豪松陰さん。
私もだしなあ。
いっか!
呼んでみよ♪
「.......輝子」
「はい♪」
しまった。
呼び捨てで呼んでしまった。
豪松陰さん、嬉しそうだし。
なんで!?
ていうか無理だ、これ無理。
恥ずかし過ぎて呼べない。
でも、名字が嫌だって言うんなら......。
「いきなり呼び捨てでもどうかと思うから.......輝さんでどうかな?駄目?」
「素敵ですね。その呼ばれ方は初めてで新鮮です」
でも何故か少し残念そうに見えるのは、気のせいか?
ああ、そうだ私も言っとかないと。
「ごう.......輝さん。私も、自分の名前があんまり好きじゃないんだ。私は名字で呼んで?」
「んー。ただ名字では少し寂しい気がしますから、塚良さん。を縮めて、塚さん。でどうでしょう?」
「塚さん」
「輝さん」
何故か少し気恥ずかしいけれど、話してみたかった人と初めて喋れて、愛称で呼び合うという事もあり、これから楽しくなりそうな予感でいっぱいの私だった。
続く