罰と優越感
「はっ!はっ!」
体育の時間の、1500m走は終わったんだけど、
もうすぐ始まる体育祭の持久走に出走するので、走り込む私。
隣に輝さんも並走する。
「輝さん、律儀に付き合わなくていいよ」
「いえ、先程のが悔しいので自分に課しています」
「そっか、はっはっ。輝さん負けず嫌いだねぇ。んじゃ、ホームルームの時間挟むけど、放課後も一緒に走ろっか?」
「望むところです。時に塚さん。体育祭の持久走でまた勝負といきませんか?」
「ん、いいね!私も負けず嫌いだよ?輝さん。じゃあ、今度も負けたら、勝った方にひとつ言う事を聞くで。ああ、私が1勝してるから、次輝さんが勝ったら、無効でいいよ」
「ええ!?」
なんだか、輝さんががっかりした。
「私が勝っても、何もできない......。塚さんに何も命令されないまま......」
みるみるショボーンとしていく輝さん。
こんなに落ち込んでいる輝さんは初めて見た。
なんだか小さな子供のようだ。
うーん、そうか。
それでは勝負の面白みに欠けるのも事実。
私が得する何か、適当な罰ゲームを.......。
「うん、そうだ!輝さんには、合気道の道着を着て私の隣で今日走ってもらおう!」
美少女格闘家と、並走する。
考えただけで、頬が緩む。
ちょっとしたコスプレ感が堪らない。
いや、本物だけど。
「少し恥ずかしいですけど、それでよろしいのですか?私は全然構いませんが......もっとこう.......人目を憚るような事かと......」
輝さん、何を期待した。
そして、輝さんは普段着なれているが故に気づかない事があるようだ。
甘い!
かかったな、輝さん!
「では、放課後。期待してるよ輝さん」
「?はい。常備してますから、大丈夫ですが?」
──そして、ホームルームを挟んで放課後へ。
会の活動の一環ということで、私は体操着、輝さんは道着、袴姿へと着替え終わる。
ちなみに、体操服を着ていたのでお着替えイベントは、ナシヨでした。
「アキレス腱をちゃんと伸ばしてね......っと!」
「袴を履いて、シューズを履くの凄い違和感ですわ」
「さっ、流すよ!輝さん」
校庭を走り出す私達。
私は、眼福だった。
輝さんの、美少女格闘家姿を再び見れて。
一緒に走れて。
しかし、輝さん。
眼福なのは私だけではない!
「な、何か視線を感じるんですが......?塚さん?」
ふっふっふっ。
周りの部活男子の熱い視線に気づいたようだね、輝さん。
そう!
これだけの美少女格闘家の輝さんという逸材を、周りが見ないわけがない!
私の感性に狂いはなかった!
ちょっとした観客が出来ていた。
「ど、道着姿で走っているだけで、これだけ注目されるなんて!」
「道場なら、普通なんだろうけどね。道場以外なら、輝さんが引き立つ!って訳だね。私は間違ってなかった!」
ガッツポーズを決める私。
私は、もちろん刺身のツマだ、観客層からしたら。
だが、それでいい。
「は、恥ずかしい!注目されるのは慣れていましたが、これだけ熱い視線を浴びるのは違います!つ、塚さんは平気なのですか!?」
「私は、輝さんがめっちゃ注目されて。だけど、その輝さんの隣にいるのは私なんだぞーという、優越感」
「!!わ、私が塚さんの隣にいる.....!」
輝さんの顔が真っ赤っかだ。
「うん、でも流石に中止しよっか。輝さんの体調の方が大切だ」
「わたしが......大切......」
いけない。
フラフラする輝さんの肩を抱く私。
キャー!!
と、黄色い声援が上がった。
観客に、女の子も混じってたのか。
中々、世の中乱れてるな。
「教室までもうちょっとだからね、輝さん」
......はい。
と、大人しい輝さんに頬笑む。
とりあえず人目は逃れたかな?
続く