持久走1500m
さて、体育の時間だ。
昼休みの後というのが、中々つらい。
ラーメンをすすっただけとはいえ、食べた後の運動だから、適度に動こう。
うん。
体操服に着替えるため、セーラー服を脱ぐ。
男子女子に別れて、教室で着替える。
下は、短パンを履いているので、上だけ脱ぐ。
ブラジャー姿で、私は何気なく斜め前の席に目がいった。
ツイ。
と、目が合うかと思った輝さんが顔をそらした。
いやいや、輝さん?
やましい事でもあるのかな?
ついでに言うと、輝さんも着替えの途中のブラジャー姿だった。
私も見といた。
これでおあいこ?
かくして、昼食後の体育の授業が始まった。
各人、2人一組になってストレッチを行う。
いつもは、夏海と見文のどちらかに混ぜてもらうんだけど.......。
少し離れた所で、輝さんがこちらをうかがっていた。
うん。
そうだよね。
私も、仲良くなったら組みたいなと、妄想したし。
小走りで近付いて、輝さんに声をかける。
「.......私と組もっか、輝さん。いつもの娘は?」
「ええ、いつもの白石さんは病欠でして。助かります、塚さん」
いいってことさ!
なんだか、巨大な意思の中にいるみたい感じる気がするけど、もちろんそんな事は口にしない。
輝さんに、変に思われたくないもん。
「こんなこと不謹慎なんですけど、嬉しいですわ。塚さんと組めて。運命めいたものを感じます」
「........私も」
相方を組むだけの事を運命とは、大それた話しなんだけど、まあ、同じような事思ってたし。
なんか、ごめん輝さん。
後出しジャンケンをした気持ちになった。
今度から、オープンに行こう。
いや、無理かも......。
背中合わせで、輝さんに担がれる。
背筋、伸びる、伸びる!
「う~ん。凄い気持ちいい~。バキバキいってる。輝さんも同じ目に合わせるからね~」
「ふふふ。期待してますわ」
今度は、私が輝さんを担ぐ。
........ぬ、ぬう!
高身長の輝さんとの差は覚悟していたけど、こんなに違うの!?
背が低い私は、なんとか輝さんを背負うだけだった。
ひとしきり輝さんを伸ばして、下ろす。
「ごめん、輝さん。輝さんの事気持ちよくできなくて」
「い、いえ。あの塚さん、大丈夫ですから......」
輝さんが赤い顔して、下を向いてしまった。
ふむ。
何かおかしな事したかな?私。
「よーし。並べー!」
体育の岩橋先生が、号令をかける。
今日は中距離走1500m走だった。
砂のトラックを5周する。
ダートの1500か。
私の中で、ファンファーレが鳴り響いていた(私だけ)
「位置につけー」
(ゲートイン完了!)
隣で構える輝さんに話しかける。
「輝さん、輝さん。勝負しない?負けたら、一個なんでも言う事聞くみたいなヤツ」
「.......な、なんでもですか!分かりました、お受けします!」
フンス!
と、鼻息荒く気合いの入る輝さん。
珍しい姿だ。
とはいえ、勝負事。
負けられますまい。
「用意、スタート!」
号令と共に、一斉に走り出す生徒達。
運動部以外は、大体流して走る感じ。
そして、輝さんと私はほぼ同じタイム。
これは、友達になる前の話し。
今は、互いに意識して走る!
「......最内を確保!輝さんは?」
1番内側、ラインいっぱいにロス0のコース取りをする私。
先ほどまで隣にいた輝さんがいない。
前か?後ろか?
「て、輝さん!!」
輝さんは、私の真後ろにピッタリ張り付くように走っていた。
スリップストリーム走法!
私の後ろで、空気の抵抗を限りなく押さえて走る。
そして最後にマクルつもりか、輝さん!
「......しかし、その走法は効果半減だよ?輝さん!」
「!」
私は背が低い。
輝さんは、モデル並みの高身長だ。
その背の差の分、空気抵抗は緩和できない!
「くっ!しまった!」
スリップストリーム走法を諦めて、横に並ぶ輝さん。
これで正面からの真っ向勝負。
私達は、全力で競り合った。
輝さんは、合気道で師範代だけどなんの、私も体力には少し自負がある。
残り1週を切って200m、1ハロン!
輝さんが、ズズイと前に出る!
くっ!
なんて勝負根性!
よっぽどこの勝負に勝ちたい、気持ちを感じる!
ならば!
「輝さん、体育の着替えの時、私を見てた?」
「は、はぇ!?」
後ろに顔を向いて、目を回す輝さん。
走るのもトボトボと.......。
「隙あり!マクルよ、輝さん!!」
「!!つ、塚さんズルいー!」
速度の落ちた輝さんを一気にまくり、ゴールを駆け抜けた私だった。
うん。
真っ向勝負とかいいながら、ズルいな私。
ハアハアと、切らした息を整えながら、輝さんと並ぶ。
少しふくれた顔で輝さんは、こちらを見てくる。
「案外ずるいんですね、塚さん。まあ、勝負に綺麗、汚ないは無いんですけれど。」
「思いついちゃったから、ごめん輝さん」
にはははっ。
と、笑う私に輝さんは反撃を試みる。
「でも、その後塚さんも私の着替え見てましたよね?」
目が泳ぐ私。
更に追撃してくる、輝さん。
「あー、勝ちたかったですわ。悔しい。それで塚さん。勝った塚さんは、私に何をさせようというのですか?」
上目遣いで私の顔を覗きこんでくる輝さん。
すいません、勘弁してください。
何も考えてなかったですけど、輝さん勝ったら何をさせるつもりだったんで!?
分からない。
浮かばない。
ただ、女子が女子の着替え見られて、見ただけなんだけどなあ──
いや、綺麗な肌でした。
思い出して、顔をフニャフニャしている私を不思議そうに見ている輝さんだった。
続く