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パドックと茶菓子




温かな日よりは、運良く日曜日まで続いた。

休日だから学校は使えない。

だから、こないだ1人でボヘーとしていた大きな桜の木のある小さな公園にみんなで集合したのだった。

私に、輝さん、京子ちゃんに、人世ちゃん。


時刻は、昼下がりの夕方になる少し前。

お茶の時間の、3時を回ったところだろうか?

ベンチに腰かけて、4人の女子高生が立て掛けて置いた一つのタブレットの画面を見ている。


お茶菓子をつまみながら。

レース前のパドックで、人に引かれてグルグル周回運動している牝馬達を見ていた。



「このシュークリームおいしいですね?」



「分かりますか人世。それは商店街でもすぐ売り切れる、でちご屋の並び不可避の一品です。舌も悪くないようですね」



春爛漫で、桜の花びらがヒラリヒラリと落ちてくる。

桜の大木の下のベンチで紅茶をすする。

輝さん自ら淹れてくれた紅茶が、魔法瓶から紙コップに注がれた贅沢な一杯。

まさしく、ティータイム。

のんびりとした陽気に、近所の幼稚園児が砂場で遊んでいるのを見ながら、お祝い稽古と称したものの、賭場の緊張感とはかけ離れた勝負の空気になっていた。


あ、桜の花びらが紅茶に入った。

桜紅茶だ。

乙だね☆



「いや、会長まで何してんスか!勝負の緊迫感0なんですけど!☆じゃなくて!真面目にやる気あるんスか!?」



おー。

京子ちゃんが燃えている。

嬉しいよ?

そんなに真剣に勝負を考えてくれて(言い出しっぺの台詞では無いのは自認しながら)

嬉しいんだけどさ。



「まー京子ちゃん。秋の天王杯の時と違って、商店街のおじさん達のギャラリーもいないしね?京子ちゃんが初めて予想した懇親会の、春の天王賞みたいな感じだよ」



「........いや、でも。こんなに平和ボケな空気でしたか?」



それはそーなんだけど。

でも、このシチュエーションにこの天気。

お外での、ぽかぽかティータイムも含めてのお馬さんだしなあ。



「そうですよ京子。風情を楽しむのも一興という事です。嗜みなさい」



「そうですよ!ムグムグ......花も愛でる余裕が京子先輩には足りません!」



「生クリーム頬っぺについてんぞ新崎........。そーかもしんねーけど、それならそれで勝たしてもらうけどな?」



「ふふっ。うん!それじゃ先手は譲るよ京子ちゃん。選ぶのは1頭。馬の着順で勝敗を決めます。決まってる?」



「ええ。面白みには欠けるっスけど、1番人気単勝1.3倍エムエムオーシャンで」


人世ちゃんが白い目をした。

ええー、と言う顔だ。

そして、1年上の先輩に対してハン!と、鼻で笑った。



「面白くないですね京子先輩。勝ちたいのは分かりますけど、必死過ぎたら運は掴めませんよ?」


「面白みに欠けるって前置きしたろ.......。調子くれんなよ?1年坊。強い馬が強ええんだ。そういうお前は何選ぶっつーんだ?」



........そうだねぇ。

エムエムオーシャンは、前走G3チューリップ杯4馬身ちぎって勝ってるし、前の年の阪神3歳牝馬賞のG1の勝ち馬だしね?

5戦して着外無しで3着までには来ている。

単勝1点台は、伊達じゃない。

........けどね?


まあ、それにしてもこの2人はお互いに、いい相手だ。

2人とも負けん気も強いから、最低限勝負は出来ると思う。

先ずは、勝つ気が無いとね?

いい関係に育っていって欲しい。

勝負付けは、まだまだ先だ。


つらつらと色々思いを馳せながら、私は最初から決めていたように、人世ちゃんに選んだ馬を促す。



「私は4番人気単勝16.5倍のムーンライトジルバです!」


「その心は?」


「鞍上の死位ジョッキーが格好いいからです!!」


「ふむ。分からんでもない」


「ちょ、新崎てめぇ........」


「じゃあ、輝さん言ってみて?」


「はい、おひいさん。私は5番人気単勝22.8倍の、フローラルブルーですわ♪鞍上の川内ジョッキーが、牝馬は川内!と、ダビステというゲームで学びましたので」


「........お、お姉さままで?」


「最後は私。3番人気単勝13倍、ヒッピーパス。鞍上は名人真壁さんだ。真壁さん、舐めんなよ?ソコソコの馬なら持ってきちゃうからな?」



ボケ重ねて殺そうと思ってたけど、なんかキレてる私。



「馬じゃなくて人にベクトル振れちゃってるっスけど.......でも、へへっ!やっぱ会長好きなんスねえ?」



「京子ちゃん.......。競馬に絶対は無い.......人生にもね?」



「死位さん格好いいですよ?人生も勝負事も顔に出ると思います」



「燻し銀の川内さんも忘れないでください?」



瞳に暗い影を宿した4人の乙女。

その周りをつむじ風が舞い、桜の花びらも伴い舞い吹雪く。

ティータイムの穏やかな空気が、いつの間にか剣呑な雰囲気にとって代わり、砂場で遊んでいた幼児達は、何事かとおののいて、お母さん達に連れられていった──





勝負乙女達は、不敵に笑う。





続く













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