先輩達
「うちの学校は、校門の所に桜の木が植えてますから、こういう時情緒たっぷりっスね」
「京子先輩もそんな事言うんですね」
「待て新崎!この!」
キャッキャッと、逃げ回る人世ちゃんと追いかけ回す京子ちゃん。
じゃれあっている2人を見ていると輝さんが、
「桜の蕾が開き始めて三分咲きというところでしょうか?人世の入学式の頃に満開でしょう」
「そうだねえ。私達ももう三年生だよ。早いねえ」
「本当に。知っている先輩方は少ないですが、それでも寂しいですわね」
「捕まえたぞ新崎!つか、会長。この場所で待ってていいんスか?」
人世ちゃんにヘッドロックを極めた京子ちゃんが聞いてくる。
うん。
その疑問はもっともだ。
だけどだ。
少し離れた先に、1人の外人さんの周りに制服の人だかりの山が出来ている。
クラスの人達だろうか?
それとも部活の後輩たちだろうか?
私達の目的の外人さんには近付きがたい。
私は、手にした小さな花束をクルリと手の中で回す。
「あそこに混ざって行けと?京子ちゃん」
「すんませんっス........自分も無理でした.......」
情けないようだが、人間テリトリーというのがある。
京子ちゃんは分かってくれるけど、輝さんと人世ちゃんは気にしなさそうだ。
でも、あの人の山当分動きそうにないな。
どうしよう?
その時、桜の木の下の校門を潜り抜けた人から声がかかる。
懐かしい声がした。
「よー。元気そうだなお前ら」
『花知華先輩!』
可愛らしい八重歯を覗かせて、私と同じぐらいの背丈の小さな元先輩。
今日卒業する相方を迎えに来たのだろう。
久しぶりに会った花知華先輩は、さっそく私達を見て捲し立てる。
「そんなとこに雁首揃えて何やってんだ。行けばいいじゃねーか。駄目?テリトリーうんぬん?めんどくさい後輩たちだなあ。わーたよ。俺が呼んでやる」
相変わらず元気な花知華先輩は、スゥと息を吸い大きな声で相方を呼んだ。
「アンナー!!迎えに来たぞー!!」
栗色の三つ編みを翻してアンナ先輩がこちらを振り向いた。
アンナ先輩の周りにいた女生徒達も、一緒に振り向いた。
全員、こっちに来てしまうんじゃ......?
一瞬頭によぎったけれど、後輩であろう女生徒達は口元に手を当てて、「あら~♪」としていた。
(あら~♪って?)
「ハナチカ!お待たせ!」
「卒業おめでとう!アンナ!」
駆け寄るアンナ先輩。
その勢いついた相方を、小さな体で抱き止める花知華先輩。
後輩であろう女生徒達の黄色い声が飛んだ。
.......ああ、そういう事ね。
公認のカップルだったって事ね。
華のある絵になる2人だもんなあ。
そりゃ、キャー♪と声も上がるか。
えっ、この状況あんまり変わらなくない?
輪の中に入る訳じゃないけど、遠回りに視線を浴びてるんだけど。
ジトーと恨みの視線を、花知華先輩に送る私と京子ちゃん。
先輩は気にも止めない。
「アンナお姉さま。ご卒業おめでとうございます」
「おめでとうございます!」
決めていた手筈通り、輝さんと人世ちゃんが小さな花束を送る。
アンナ先輩は、手にしていた物を花知華先輩に渡すと、その花束を受け取って2人の肩に手を置いて軽くハグをする。
「ダンケ。フタリとも」
アンナ先輩は、離れた2人に笑顔で何かを託す。
「アトはタノムよー?」
頭を撫でられた人世ちゃんがくすぐったそうに、うひゃひゃと笑った。
その様子を見て、輝さんの目がまた細くなった。
2人が下がり、私と京子ちゃんが前に出た。
人数は少ないけれど、関係した人達の寄せ書きを手渡す。
お礼を言おうとしたけれど、先にアンナ先輩が話した。
「色々、ツッツイタくれどゴメンね京子。塚」
さっきの2人より強めのハグをしてくるアンナ先輩。
「.......痛えっス」
「幸せの種はアルカラ。腐らずイキナサイ」
「.......うす。卒業おめでとうございます」
京子ちゃんの耳元で祈るような声で呟くアンナ先輩。
ゆっくりとハグを解除して、私にも声をかける。
「塚サンも、慢心せずにサッサト幸せにナンナサイ」
「はい。クリスマスの時はお世話になりました。卒業おめでとうございます」
お祝いは言えた。
私達はまだ教室に戻るから、ここでお別れになる。
聞きたい事を、私はぶつける。
「アンナ先輩、ドイツに戻るんですか?」
「ソウヨ~。ハナチカが大学卒業したら、ドイツに来てもらうヨウニなってるヨー?」
『えー!!』
仰天の目でみんなで花知華先輩を見る。
花知華先輩は決まり悪そうに、
「だ、大学卒業してからな?」
「イツカみんなで、ドイツにアソビニ来るよ~?」
はい!
と、全員いい声で返事。
京子ちゃんがクエスチョンを投げ掛ける。
「んじゃ、花知華先輩が大学卒業まで遠距離恋愛ってわけっスか?」
「ソウヨ~。もしハナチカ浮気してたらオシエルよ~?」
はい!
全員、いい返事をした。
「お、お前ら、それでも......」
「ハイハイ、行くよ?ハナチカー」
花知華先輩を、引きずって行くアンナ先輩。
納得いかないまま、引きずられていく花知華先輩。
一緒に、くっついていく人世ちゃん。
いい先輩達に巡り会えたものだ。
私も、そうあれればと思う。
そう思いながら手を振ると、返してくれた。
「マタネー☆」
続く