夢枕
.........コツコツコツ。
置時計の、秒針が刻む音が部屋に響く。
どれぐらい時間がたったのだろう。
開幕した時は、これ勉強会にちゃんとなるんだろうか?
と、脱線していた私達だけど、順調だった。
驚く程、順調だったので、少しぐらいいいだろう。
「少し休憩を挟もっか、輝さん」
ふえーい。こんなに集中して勉強できた、自分をほめたい。
もちろん輝さんの教え上手もあっての事だ。
横にゴロリと寝転がる。
自宅だからこそ出来る暴挙だ。
寝転がったまま、背筋を伸ばす。
顔も上を向いて。
視界に、輝さんの正座した綺麗な脚が見えて.....
バッ!
瞬発的に、自分の首を下に向ける私。
危うく、輝さんのスカートの中が見えそうだった.......。
「塚さん?」
「ひ、ひゃい!見えてませんよ!?」
ビクリと体を震わせる私。
輝さんは、自分の膝をポンポンと叩いて手招きする。
「膝枕はいかが?じゅうたんとはいえ、リビングは固いでしょう」
「は。いや、しかし」
「私の膝は柔らかいですよ?」
「は。失礼します」
体を横に向けて、頭を輝さんの膝に預ける。
あっ。
なんかいい匂いがする。
輝さんの匂いだ。
さっきのベッドで、スーハーしていた輝さんを思い出す。
いや、流石にそれはやっちゃいけないような......。
サワッ。
私の余り長くない黒髪に輝さんの手が撫でる。
頭を撫でるように。
髪を鋤くように。
耳と頬っぺたに当たる輝さんの体温も温かくて。
......いけない。
目がトロンとしてきて、自然とスースーと呼吸する。
いい匂い。
輝さんの匂い。
落ち着く。
目の前が段々暗くなって、輝さんの慈しむような笑顔が最後に見えた──。
ふわりふわりと、周りに羽が舞っている。
足元には、花畑が。
チューリップが辺り一面に咲き誇っていた。
どこかで嗅いだ匂い。
輝さんの匂い。
「日依心さん」
声のした後ろを振り返ると、輝さんがいた。
はにかむように、一歩ずつ私に近付いてくる。
輝さんか。
もう。
名前は駄目だよ?
諭そうとしたら、どんどん近付いて......。
近すぎる!
顔が目の前に......
輝さんの唇が、私の唇に触れた。
........柔らかい。
........温かい。
キスされてしまった。
キスってこんな感じなんだ......。
──はっ!!
目を開けた。
変わらず膝枕の上だった。
輝さんと目が合う。
ニコリと笑う輝さん。
「おはようございます塚
さん」
よ、よかったー!!
夢だったー!
焦ったー!
本当に焦った!!
「い、いやあー、ごめん!ごめんね、輝さん?うわっ!もう日が落ちてるじゃん!起こしてくれて良かったのに?」
「いや、あんまり可愛らしい寝顔でしたので、起こすなんてもったいない」
「ははっ。恥ずかし!送ってくよ輝さん!」
いやー、輝さんの匂いってチューリップの花だったのかな?
そんな想像をしてみたけど、チューリップの花の匂いがわかんないや。
やっぱり、輝さんのスカートの中が見えそうになって、変な意識があんな夢を見させたんだろな。
いやー、後ろめたい。
輝さんの顔見ても、唇に目がいってしまう。
そして無用にドキドキする。
輝さんを夜道送りながら、そんな事にばっかり頭がいく私だった。
でも、なんか妙に艶かしい感触がリアルで──
考えないでおこう。
続く