フニフニ
──『あはははははっ!しじみ!しじみが!!』
「な、なにやってんだよ日衣心!あははははっ!!」
「お、おひいさんが、しじみを!しじみを!ふっくっくっ!」
「ひ、日衣ちゃん、クックック......!」
コツコツ。
部屋のドアをノックして開けてくる。
おっと、ここまでのようだ。
「ほら、消灯の時間ですよ。自分達の部屋に戻って寝なさい」
「はーい。じゃあな日衣心、輝さん」
座は終いで、夏海と見文が部屋に帰っていく。
去り際に見文が私達にコッソリ助言を残していきながら。
「日衣ちゃん。夜の見回りに気をつけてね♪」
.......。
ただでさえ、2人きりの夜だと言うのに。
助言という名の爆弾を落としていきやがった。
せっかく、私のしじみ芸でそういう空気にならないように、意識を反らそうとしていたのに......。
ほら、輝さんソワソワしてるじゃないか。
寝た子を起こしてくれちゃって。
空気がまた変になってきたぞ。
ど、どうしてくれよう......?
「あ、あの!」
テンパりかけようとしていた私に、輝さんからひと声!
私はビクリとしながらも、輝さんの続く言葉を待った。
「も、もう眠気も凄いですし、もう寝ましょうか!おひいさん!」
とても寝るような雰囲気に見えない、凄く勢いのある就寝宣言だった。
「輝さん。本当に眠い?」
「も、もちろんですわ♪」
?
なんだか眠そうというより、凄く無念な表情に見えるのだけど。
.......だけど。
私もテンパって変な事を言いそうだったので、早いけど寝ちまった方がいいか。
余りその先を考えないようにしながら、私は輝さんの言葉に乗る。
「.......んじゃ寝よっか?電気小さくするね?」
「無念。おやすみなさいです」
無念って言った。
私達は、変な空気になりかけたままベッドに横になって寝た。
寝れる感じじゃなかったけれど、頭の中で羊を5300匹数えたぐらいで寝付けたようだ──信じてるよ輝さん......。
──「.......んん。........トイレ」
ザザー。
バタン。
ゴソゴソ。
「えっ」
うふふっ。
あったかくて柔らかい。
「ちょっ」
ん?
.......あったかくて柔らかい?
寝ぼけた意識が覚めていく。
えーと。
トイレ行ってベッドに戻って......。
抱き枕?
いや、確か修学旅行で......。
フニフニ。
「やん」
私の手のひらであたたかくて柔らかいモノが。
フニフニフニ。
......。
私の頭ひとつ上から、そんな音が聞こえてくるような熱い視線を感じた。
大浴場で散々浴びた輝さんの視線だった。
いけね☆寝ぼけてベッドを間違えた!
「おひいさん......貴女というヒトは......!」
「ち、違う。......。寝ぼけて!本当なんだ......。起きてたんですか?」
「寝れるワケないじゃないですか!でも意識が遠のいてきました......」
「て、輝さん?」
カクリ。
私を見下ろしていた輝さんの顎が上がり、意識を失ったようだった。
スースーと寝息をたて始めた輝さん。
あまりの予想外の展開の展開で、頭に血がのぼってせいだろう。
ご、ごめん輝さん。
流石に罪悪感がひどい。
──コツコツコツ。
「!!」
夜の見回りだ!
ど、どうしよう!?
カチャリとドアが開いて、女史の先生が聞いてくる。
「あら、なにしてるのかしら?」
「いやーそのー。寝付けなくて添い寝してもらってました。ははっ」
その場しのぎの思いつきを言ってみた。
「やーねーいい年して。早く寝てしまいなさい」
いぶかしがられるかと思ったけど、案外サラリとしてた。
ま、まあ変な事はしてなかったしね!
助かった......。
ドアが閉められて暗さを取り戻した部屋の中で、輝さんの寝息の音だけが静かに聞こえてくる。
下手に動けば、やっと寝れた輝さんを起こしてしまう。
もう、朝までこの抱き枕の状態だ。
駄目だ。
今度は私が眠れない。
輝さんの胸の柔らかさを思い出したら余計に目が冴えてきた。
「フニフニしてたなぁ......」
続く