勝負のゆくえ
テクリテクリとみんなで、ホテルの廊下を歩いて大浴場に向かう。
少しずつ緊張していくのが自分でも分かる。
さっきの部屋の輝さんじゃないけど。
だけど。
「日衣心、お披露目だなぁ♪」
夏海が耳元で小さく囁いた。
くっ......。
なるべく意識しないようにしてるのに、コイツは!
輝さんが不審そうに見てるじゃないか。
「輝さん、お楽しみに♪」
見文が追い討ちをかける。
も、駄目。
輝さんから顔をそらす私。
恥ずかしさで輝さんの顔を見れない。
でも、横で輝さんが頭に?を浮かべている気がした。
またまた~。
そんなフリ入れちゃって輝さんは。
本当は期待いるクセにそんな態度とっちゃって。
そんな事を考えたら少しは落ち着いてきて、まあ、見てなさいと余裕ぶっこいてきた。
「輝さん、隣、隣♪」
「はい♪おひいさん」
脱衣場に入って、隣どうしになる私達。
スルリ
と、ジャージを脱ぎ体操服の姿になる。
輝さんもなんなく脱いでいた。
『........』
お互いになんとなく無言になって。
どっちが先に......。
あっ。
思っている内にサッサッと輝さんが、体操服を脱いでしまった。
し、しまった。
先か、同時ぐらいのタイミングで考えていたのに......って。
しなやか身体つき。
無駄の無い筋肉がついているけれど、だけど角張っていなくて。
野生の美しさのフォルム。
水色のスポーツブラとショーツ。
胸を抑えているのが分かる。
輝さんのその身体つきには合っていて。
見るのは初めてじゃないんだけど、毎回見とれてしまう。
美しいものは美しいし、綺麗なんだから仕方ないと思う。
「おひいさん。そんなにポゥと見ないでくださいな」
私の視線に気づき、輝さんが少し笑いながら言う。
........こんな美を前にして。
私は披露しようというのか?
我に帰った私は、現実に怖じ気づいた。
だ、だけど......!
だけど!
修学旅行の為に。
期待されているのかどうかは分からないけれど、それでも選んで着てきた勝負下着(この言い方、嫌)
セクシーは無理でも、それでも可愛らしさに少しの大人びた感じを出したくて。
花柄の刺繍が入った、薄いピンク色のブラとショーツ。
それにどっちにしろ脱がなきゃお風呂に入れない。
おんなじ脱ぐならどうだ!
輝さんの期待に答えて!
「ど、どうかな?」
ポーズというポーズは分からない。
どうだ!
と、心で振りきれたようで、身体は強ばっていた。
分からないまま、恥ずかしさが先に立ったのだろう、それでも下着を見せなければと、胸の下で腕を組み、足がモジモジとしてしまう。
中途半端な格好になってしまったけど、下着は見てもらえるんじゃないかな?
弱気になるな!
どんな顔をしたら良いかも分からないけれど、苦しい笑顔を作る。
自分でも無理したのが分かった。
「.........」
静かに。
輝さんが静かに停止している。
み、見えてるよね?
輝さんの細い糸目を疑う。
と、思っていると、輝さんの糸目がうっすらと開かれて。
開かれたと思ったら、私は思わず呟いていた。
「ちょ、ちょっと待って.......!」
輝さんの遠慮の無い視線に気づく。
ものすごい熱量の視線が私の肌に刺さる。
あ、熱い!
まだお風呂に入ってお湯に浸かった訳でもないのに、体が熱い。
な、なんて視線なの。
以前より強烈に感じる輝さんの視線。
付き合うってなって。
その。
もっとこういう事を意識するようになったからだからだろうか?
こう見られて、意識するから。
いやいやいや。
それでもこれはちょっとあんまりにも。
私の勝負下着の勝ちはよく分かった。
分かったから!
「て、輝さん.......。分かったから......」
自然と声がかすれ、目は潤んで輝さんに懇願する。
輝さんは、ハッと我に帰り(でも視線の熱量は変わらないので目を反らした)私に苦情を入れる。
「おひいさんが余りにも愛らしいので、淑女でいる決意が飛びそうになりました......」
「ご、ごめんなさい?」
「本当に......どれだけ我慢したと......ふぅ。一瞬で頭に血が上りましたわ」
くるくると首を回して落ち着こうとする輝さん。
少し間を空けて私は聞く。
「で、でも、輝さん期待通りだった......?買い物の時、スルーしたよね?」
「えっ」
「えっ?」
「い、いえ、あれは、スルーといいますか、あれはですね。そこに触れたら、自分を抑えるのが難しいかったといいますか!.......でも、期待というか期待というか、意識はしてました、ハイ」
再びチラリと私を見る輝さん。
やっぱりすごい熱を感じる。
一応聞いてみる。
「ど、どうだった?」
「本当に愛らしい......言わせないでくださいまし」
心底つぶやく輝さんに、この下着は勝ちだ!と勝利しながらも、関係の深化に少しの怖さを覚えているのに、自分から挑発してどうすんだ?
と、我ながらアホだと思った。
「おひいさんは魔性ですわ......」
えっ。
そういう事!?
魔性は輝さんじゃなく私!?
ち、違う!
私、期待に答えようとしただけで.......!
ハア.....と、タメ息をひとつ吐いて輝さんは下着も脱ぐ。
乗り遅れないようにと、今度こそ私もサッと脱いで、サッとバスタオルを体に巻いた。
「違うんだ~!」
そう言いながら、既にのぼせそうだったから、冷たい水でジャブジャブと顔を冷やしてから大浴場に入る私だった。
輝さんも頭を冷やそうと隣で冷たい水を浴びていた。
冷たい水を浴びた私達だったけど、余り効果は長続きしなかったのだろう。
お風呂に、輝さんの視線に、のぼせる頭。
入っている記憶が白くぼんやりしたものだったから──
続く