2人部屋
ホテルのロビーから割り当てられた自分の部屋に移動する。
少し狭めの部屋で、ドアを開いたら真ん中に小さなテーブルがあり、両サイドに一人用のベッドが備えてある。
入って手前には、トイレとバスタブのドアが見える。
2人で一部屋の配置。
後ろに輝さんがついてきている。
無言だ。
何かリアクションが欲しかった。
「2人部屋だし、こんなもんだよね。輝さんには狭く感じるかな?ハハッ」
「い、いえ。そんな事は」
高身長の輝さんが、らしくなく俯いて口をモゴモゴさせる。
これも珍しく、めっちゃ固い!
笑顔を作った私の口元も少しひきつる。
「まだ、気持ち悪い?荷物おろして少し休憩しよっか?」
「だ、大丈夫です!いえお茶を貰います.......」
備え付けの電気ポットのお湯をトポポ.......と急須に注いで、2つの湯飲みに注いで手渡される。
「おひいさんも、どうぞ......」
「あ、ありがとう.......」
ズズズ.......。
『.........』
私まで無言になってしまった......。
い、いかん!
この沈黙は何かむず痒い!
まだ部屋に入っただけだぞ!
「お、落ち着かないね.......!」
「......すいません。空気おかしくしちゃって、私......」
「だ、大丈夫だよ。輝さん」
ヘラリと顔の力を抜いて笑う。
私までおかしくなっては収集がつかない。
輝さんの手をとり、ブンブンと上下に降る。
「高校最後の修学旅行!3拍もあるんだから楽しめるよ輝さん!最初ちょっとぎこちないぐらいなんのその!」
「あ、ありがとうございます......」
ようやく前を向いてくれた。
まだ固い表情だけど、口角は少し上がっていて。
少し。
少し、何時もの輝さんに戻ってくれた。
「もー輝さんったら、そんな緊張感持ち込んでどうするつもりなのさー?」
伝染した緊張感が弛んで、くだける私。
「........!」
上がりかけた輝さんの口角はビシリと下を向き、合わせてくれてた目はヨヨヨ......と横に泳いでいた。
私はその輝さんの、面白顔に苦く笑い。
「なーにを考えてたのかな?この輝さんめ♪」
繋いだ手を組み換えて、自分の人差し指と中指でツツ.....と、ゆっくり輝さんの親指と人差し指、人差し指と中指の間を撫でてあげた。
「ふっ......!」
息を飲み込む輝さん。
予想外に好評頂けたようでなによりなんだけど、輝さんに先に釘を刺しておこう。
「輝さん。楽しむのは構わないんだけど、あくまでも団体行動の修学旅行だからね?ハメを外しすぎないでね?それと.....」
「.......?」
潤んだ目の輝さんに、釘と言うより本音を告げる。
「私も、これより先に進むの正直少し怖い」
思わず恥ずかしいのを誤魔化そうと、笑いながら言うとはにかんだようになってしまった。
すると輝さんは感極まった表情で、無言で凄い勢いで抱きついてきた。
「......!!」
「むぎゅう!」
く、苦しい......。
温かくて苦しい。
力いっぱいの抱擁で、耳元で輝さんが力強く言う。
「大事にしますから」
「うん」
少しの間の後離れて、輝さんの真顔を見て笑顔になる私。
ちょっと涙目で伝える。
「がんばるけど、もう少し待ってね」
.......ぐぐぐっ!
離れたけど、もう一度抱きつこうとするのを我慢してる輝さん。
繋いだ手の力がそれを物語っていた。
カチャリ。
部屋のドアが開く音と、聞きなれた悪友の声。
うん。
いつも通りで。
我慢してふくれた顔をした輝さん。
これも初めての表情。
「お。輝さん!そんな怖い顔で睨まないで。まだ来たばっかじゃん!?細い目で睨むって器用なんだから......ほら、お風呂の時間だよ!」
「うふふふ。日衣ちゃん、悪い娘♪」
腐れ縁の悪友達と、楽しく笑う私だった。
輝さん。
まだ先がいっぱいあるから。
だからそんな顔しないで?
「仕方ありません。淑女で参ります、と決めたばかりでしたわね」
笑う輝さん。
ありがとう輝さん。
続く