酔った輝さんと2人
雲上の空の旅も終わり、着陸の際の機内の揺れを最後に、旅客機は動きを止める。
フライトアテンダントさんの指示の通りに、シートベルトを外して、隣の輝さんを見る。
「動けそう?輝さん」
「大丈夫ですわ、おひいさん」
青い顔色のまま、笑顔で答える輝さん。
全然大丈夫そうじゃないので、肩を貸そう。
私は上にある収納棚から、自分と輝さんのナップサックを前と後ろに背負う。
そして、輝さんの脇に頭を突っ込み腰に手を回した。
「いけません。おひいさんにそんな事を.......」
「なんでもないよ。逆の立場なら、輝さんもしてくれるでしょ?」
「は、はい。そうですわね」
「じゃあいいじゃない」
「助かりますわ。ありがとうございます、おひいさん」
背の高い輝さんと背の低い私ではあるけれど、まあ支え無いよりマシかと心の中で呟きながらも、空港の外に出る。
でもまだ輝さんの、試練は続く。
「ひっ」
歓送バスだった。
空港からホテルまで一直線。
それは良いけど、乗り物酔いの輝さんは辛い。
いつも凛とする輝さんからも、思わず恐怖の声が漏れた。
「こ、これはどうしようもない」
私はバスに乗るのは無理だと判断し、担任の先生に輝さんの状態を伝えて、後から合流することを伝えた。
私が付き添いで残りますと言い、無理かと思ったけどあっさり通った。
「うん。あなたたちなら大丈夫でしょう」
との事。
先生方の印象は、すこぶる良いようだ。
まじめ大事。
自販機でポカリスエットを買い、輝さんに渡す。
「ありがとうございます」
輝さんの血の気の引いた青い顔が、儚く笑うように見える。
うーん。
そんな趣味無いんだけどなあ?
何時もより弱気な輝さんを見ていると、ソワソワした。
クリスマスの時の輝さんを、アンナ先輩を変態と評したけれど、これじゃあ自分もじゃないか。
いかん、いかん。
輝さんが喉を鳴らしてポカリスエットを飲む。
喉を見る。
飲み終わり、口の端を拭う仕草を見る。
私は目を奪われる。
「は、恥ずかしいですわ。おひいさん」
輝さんが照れる。
み、見すぎた!
私も照れる。
「て、輝さんが悪い!」
「あら。私の何が悪いんですか?」
しなだれて私の肩に寄りかかる輝さん。
うふふ、と笑い声が背中から聞こえる。
ちょ、調子戻ってるじゃないか!
「そういうとこだよ」
「申し訳ありません。少しこのままで」
身長差で、結構無理やりな体勢な気もするけれど、輝さんが楽になるなら良いかと、肩を張る。
やっぱり北国だね。
空気が乾燥していて、そして冷たい。
肩に乗った輝さんの頭が暖かい。
「ん~」
輝さんの頭が、私の肩をスリスリする。
甘え上手だな!
いや、私が下手なのか!?
「ん~。ふふふふっ」
肩を登って首筋まで来た。
うん。
この人、もう大丈夫だろ。
ペロッ♪
「うひっ!?」
首筋を軽く舐められた。
肩をスッと抜いて立つ私。
おっとっと、と頭が下がる輝さん。
「ほら。もう行くよ!輝さん」
「失礼しました♪」
チロリと舌を少し出す輝さん。
まったく、この人は。
先生方の評判と裏腹の、私の輝さんへの評価だった。
嫌じゃないんだけど.......。
人目も無かったんだけど、流石に倫理観が傷んだ。
そしてタクシーに乗りホテルへと合流をする私達。
輝さんは、休憩を挟んだのでなんとか事なきを経た。
まあ、酔ったは酔ったんだけれども。
「おー輝さん大丈夫?」
「日衣ちゃんは食べれるよね?」
ホテルで夏海と見文が迎えてくれた。
昼食は終わっていて、見文がおにぎりを持ってきてくれていた。
輝さんは昼食無理そうだし仕方ない。
私はありがたくおにぎりを頂く。
おにぎりを頬張りながら、夏海、見文と話している輝さんを見る。
改めて美人よなあ......。
黒い黒曜石のように鈍く光る、腰にかかるぐらいの黒髪。
笑うと線の様になってしまうのが愛らしい、ちょっとした狐目。
背も高く、モデルの様にスラリとして無駄な肉の無いしなやかで、それでいて強いボディライン。
よく付き合えたな......。
そんな事をふと思いながら輝さんを見ていると、チラリと輝さんと目が合った。
細い狐目の奥の瞳が、いたずらっぽく微笑んだ。
頑張ろう私.......!
続く