勝負師のお買い物
お正月の三ヶ日も過ぎて、もう冬休みも明けようかというある日。
私達は、ショッピングモールで買い物をしていた。
そろそろ修学旅行。
その準備の為の買い物である。
長野への三泊四日の旅。
スキーがメインになる為、防寒対策の買い物にやってきた。
「おひいさん、このオレンジのネックウォーマーどうですか?」
「うん、いいね。色違いのお揃にしちゃおうか?」
「いいですね。では、私は緑にしましょうか」
「うん。手袋も.......」
そんな事をやっていると、嬉しいような、少し恥ずかしいような。
付き合い始めの、甘い、甘い、時間。
沸点が低すぎて、溶けそう......。
「ヒ、ヒートテックはかかせませんわね」
「う、うん。薄くて温かいもんね」
「パーカーもいいですわ。薄いものを着重ねて、調整した方がいいでしょう」
「なるほど。ホッカイロも外せないね。後、輝さんはこれも要るよね?」
「そうでした。飛行機に乗りますから、買っておきます」
そう言って、輝さんはすぐ横にあるコーナーをスルーして、そそくさとレジへ進んで行った。
?
それはいいんだ?
──とまあ、それから日は過ぎて。
私はおんなじショッピングモール舞い戻って来てる訳なんですが。
こそこそと、人目をはばかりながら、知り合いに見つからないように。
犯行現場に犯人は戻って来る、とかではなくてですね。
パートナーの輝さんには見つかってはいけない訳で。
まあ、その。
下着を買いに来たのです。
こっそりと1人で。
修学旅行だし団体行動が基本ではあるけれども、2人になる事はあるだろうけど、そんな展開あるだろうか.......。
いや、あるな。
無いハズがない。
輝さんと2人で前にここに来た時は、それなりの必要なモノは買ったけれども、下着については触れなかったな、輝さん.......。
あえて、触れなかった?
あの、私に対して貪欲な輝さんが?
と、言う事は........。
逆に期待されてる!?
........との答えに至った私は、再びこのショッピングモールに戻ってきて、1人色んな下着を見て悩んでいるのよね。
考えすぎなら、それに越した事は無いけれど。
「........可愛いか、セクシー......は悔しいけど合わない。......やっぱり可愛いで.......でも、クリスマスの時を思いだしたら、ある程度大人びた感じも.......」
誰かに頼るべきだったろうか?
でもかなりプライベートな事だし、伏せるとこよね?
私は、飾られている色んなデザインの下着を見ては比べる。
む~どれにしたらいいんだ?
「うわあ。そういうの似合いすぎ......」
「ふふっ。少しエグすぎるかしら?じゃあ、色を落としてみたら.....」
「おおっ。清楚なのにエグい.......」
.........。
カップルが。
女の子同士のカップルが。
よく知る声の2人が近くに。
さりげなく。
私は、ほんとうにさりげなく空気のように去ろうとした。
「おっ!日衣心、どしたん?」
ススス.....と消えようとしたけれど、あっさり2人の中堅カップルに見つかって、声をかけられる私。
「日衣心なんで下着売り場で1人でいるんだ?輝さん一緒じゃないのか?」
「いや、まあ、その.......」
中堅カップルの1人の夏海が、核心をついた質問を投げてくる。
夏海は、シンプルよね!
良いところで長所だとは思うけど、今は違うな!
すると、私の挙動不審な動きを見たもう1人の相方の見文は、息を飲むようにハッ!と気づいたようなリアクションを取って、夏海にアイコンタクトをする。
夏海も無言で首肯く。
あ、これ地獄のコンビネーションだ!
「!!.......そう。日衣ちゃんも、いよいよね.......」
「いよいよってまだだよ!?」
「そうか!日衣心!勝負師の見せ処だな!」
「勝負師をそういう風に使うのやめて?」
『まあまあまあ!』
「いやいやいや!」
押し問答に引き問答で、試着室に押し込まれる私。
かくして。
悪友で腐れ縁で先達の2人に、わやくちゃにされる私だった。
もう少しでキレそえになるタイミングで、真面目なアドバイスをくれる所が、タチが悪い。
それは、付き合いの長さを物語っていた。
ありがたいような。
迷惑なような。
まぜこぜの不思議な気持ちだ。
「よっ!勝負下着!」
「最後に言うか!!伏せ続けたのに!」
笑顔で走って逃げていく2人に、空き缶を投げる。
クロスステップで避けやがった。
ちぃっ!
色んな秘密を共有しても、悪友は悪友だな。
むしろ腐れ縁がより腐った気がする。
そんなどうでもいい私の感想はそっちのけで、修学旅行はやってくるのだった。
続く