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雪の降る街で





「おひいさん!こちらですわ!」


シアターのロビーで輝さんが手を上げる。

ざわざわとした帰りのお客さん達のの喧騒と熱で、ロビーはいっぱいだった。

混雑の中、輝さんの元まで泳ぐようにして人の波を掻き分けた。


「ごめん、輝さん。お土産買うの諦めたら良かった。ふぅ、お待たせ」


「ご家族にでしょう?翼君、元気にしてますか?」


「うん。毎日、元気過ぎて。輝さんの事気にしてる」


「ありがたいですが、少し可哀想な気もしますね」


「あー、まあ、うん。輝さんは、私の彼女だしね......」


ポリポリと頬を掻く。

いつか言わなきゃいけない時も来るのか。

少し胸が重くなっている私の手を取る輝さん。


「人も空いてきましたし、そろそろ外に出れそうですわ、おひいさん」


「.......うん。って、うわあ!」


イルミネーションでライトアップされた街並み。

その夜空は黒に近い灰色で。

顔を上げると、鼻の頭に冷たくて白いぼたん雪が乗る。


「ホワイトクリスマスになりましたわね。良い雰囲気ですわ」


「最近の冬で雪って!珍しいね!」


「はい。日頃の行いですわ」


2人で笑う。

ああ、そうだ。

この雪の中じゃやりにくい。

一旦屋根の下に戻る私達。


私は、モヘアバッグから緑の包装紙に包まれたプレゼントを取り出す。

輝さんも、ブルーのバッグからリボンのついた赤いプレゼントを取り出した。


「メリークリスマス!輝さん」

「メリークリスマスですおひいさん」


今回は、余り値の張らない学生らしいプレゼントにしようと、2人で事前に決めてあった。

お題も決めていて「文具」に設定。

カサカサと、贈り合ったプレゼントを開ける私達。


「しおり......ですわね。木製の」

「うわあ。レザーのブックカバー!」


私の手には、大人びた茶色の革製のブックカバーが。

輝さんの手には、黒い下地に赤い梅の花をあしらった木製のしおりが。

.......余り値の張らない物じゃなかった私達だった。


「おひいさん......このしおりは結構な......」


「いや、はははっ!なんだかコレじゃない!これも違う!輝さんに合うしおりは黒で気品があって......ってやってると.....いや、輝さんも革製だよ?このブックカバー」


「ええっ。ああは言ったものの、安物はおひいさんに合いません!」


口をへの字にして言い切った輝さん。

私は、思わず声をもらして笑った。


「もー。輝さんったら。でも、ありがと」


「おひいさんこそ。ありがとうございました」


私達は、帰り道を歩く。

しかし、まあよくも被りそうで被らないプレゼントだし。

輝さんの胸元に輝く、銀の葉のブローチを見ながら思った。

すると輝さんが、私の頭の雪を払ってくれる。

そして私の銀の葉の髪留めに手が触れて、優しい笑みを浮かべる。


「そこで傘を買って帰りましょう」


目の前のコンビニで、安いビニール傘を買う。

同じような人達が買っていったのであろう、傘は一本しか残ってはいなかった。


「相合い傘だね」


「はい、おひいさん♪日頃の行いですわ♪」


すごいな日頃の行い。

私的な目的になってるけど。

.......まあいいや。

雰囲気あるし。


歩道の足下の両サイドに、色とりどりのイルミネーションがあって、まるで光の植物のようで。

途切れ途切れに暗くなって。

上空も暗い灰色の雲。

天気も時間も暗く染まる街並み。


もう車も、人通りは少なく。

いや、いつだったか.......。

カチカチのアルバイトをした時だったかな?

今みたいに、ちょうど私達以外に人が居なくなるのを、ポケットと言ったのは?

まあ只の偶然なんだけど、だけどこの世界に2人だけ取り残されたような錯覚に、やっぱり陥る。

だから、この錯覚が続けばいいなと思いながら、輝さんを見る。

輝さんも私を見ていた。


「輝さん」

「はい」


私達の影が重なる。

人も居ないポケット。

来たとしても、透明なビニール傘は雪が積もって白い壁になる。

2人の姿が見える事はない。

だから私達は、いつもより長めのキスをした──





続く







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