聖夜と奇跡
「ふぅ.......」
解放感と共に、私のバックにお花畑が咲いたような気がした。
それぐらい切羽つまっていたのだけど。
──ジャジャジャ、キュッ!
と、手を洗いハンカチで手を拭きお手洗いから出る私。
輝さんが迎えてくれるけれど、私は恥ずかしげに輝さんを見た。
だけど輝さんは笑顔でフォローしてくれた。
「大丈夫ですよおひいさん。そんな事で嫌いになりません。生理現象ですもの」
「ご、ごめん、ありがとう.......」
「気になさらずに。それに.......」
「?」
「大変にそそりましたから」
「ひぃ」
♪
やっぱり笑顔の輝さん......。
でも、その笑顔の印象が180度変わる。
輝さんが、アンナ先輩と同レベルだった。
「羞恥と苦悶に滲む、おひいさん。たまりませんでした」
「わ、私を!が、我慢してたの、み、見てたの!?」
「思い出しただけで、よだれが......」
「輝さんの馬鹿!変態ー!!」
知ってたなら、もっと早く助けてくれていいじゃない!
アンナ先輩より上手の質の悪い変態じゃないか。
私は恥ずかしさと悔しさで、目尻に涙が浮かぶ。
輝さんは、よだれを拭きながら私の背中捕まえる。
小さな私を抱き寄せる。
「申し訳ありません可愛いかったもので、つい.......」
「どれだけ不安で恥ずかしかったか......。分かってる?輝さん」
「はい。承知しております、おひいさん。そうですね、次は.....」
「次?」
「おひいさんが私を責めて下さいまし」
ボッ!!
私の顔、燃えたんじゃないかって音がした。
恥ずかしさを上回る画が頭に浮かびそうになったのを、慌てて頭から消し去ろうとする、私。
だけど、輝さんが追い討ちで耳元に囁く。
「おひいさん♪どんな妄想をなされましたか?」
「ぬぬぬ......!」
「それは、妄想じゃございません。現実に出来ますわよ?」
ふふふっ。
と、蠱惑に笑う輝さん。
この人手に負えない変態さんなじゃないか?
自分のパートナーのポテンシャルにおののきながらも、私は輝さんの腕を取り向いた背を正面に向けて、真っ直ぐに輝さんを視る。
「そんな行為は、しません。させません!.......少なくとも今は」
最後の方が、ゴニョゴニョと口ごもって輝さんを見れなかったんだけど、顔に添えた両手に熱が伝わってきて、輝さんの顔もボッ!と、赤くなっているのが下を向いていても分かった。
「.......さ、流石ですわ。おひいさん」
「喜ばないでよ。.......輝さんの変態」
社交ダンスでも踊りそうな形で、腰に手を当てて軽く抱き合っていた。
私達は少しの間そうしていた。
顔を上げて、赤くなったお互いの顔を見つめ逢い。
それだけで何もいらないと思う。
思うけれども、
「音が止みましたね。休憩で人が来ます、おひいさん」
「ちぇっ.......」
私の軽い舌打ちに、輝さんがゴクリと喉を鳴らした。
危ない、危ない。
私の理性も溶けかかってた。
でも、残念。
なんで時間は止まらないのかな?
フーと、ひと息熱いため息をつく輝さん。
「おひいさんも素質ありますわ」
「そーお?」
してやったりの笑顔を返す私。
輝さんもニヤリとして、腰に当てていた手を外し、私の手を取りロビーのソファーに移動する。
「落ち着きましょうか......。この演目は「復讐のショア」ですが、おひいさんのチョイスですか?」
「んーん。アンナ先輩のだからほんとに偶然だったんだよ!輝さんも知ってたんだよね!?」
「ええ!まだ名家で暗黒時代の子供の頃の私を、支えてくれたアニメですわ!ピラルクと同じぐらい大事な存在です。まさか、オーケストラで演奏されているなんて!」
「うん。びっくりした。凄い時代だねえ.....。私も大好きなアニメだったから、偶然にしたら運命的な曲目だよね。アンナ先輩知ってるはず無いんだけどなあ?」
「何かの使者かも知れませんわね、アンナお姉さま」
「使者か。それでもちょっとそうかも?って思うなあ.....」
「使者だと言うのか!自分で!ショア!」
「あ、それ言いたかったんだ輝さん。ふん、貴様にはヤラせん!ロメロ!」
「プロセスの為の目的になってるんだよ!」
「お前も同じような事をしている!」
「貴様とは違う!」
休憩時間で人が増えてきた中で、ドレスアップされた女子高生の2人組みが、「復讐のショア」の名シーン、名セリフの言い合いをして。
周りの大人な人達も同じように楽しんでいたりして。
平和なクリスマスで特別で。
特別なんだけど、毎日がこうだったらなあと奇跡を願う。
続く