タカノシアター
ほどなくして会場のタカノシアターに着いた私達。
道中で輝さんと腕を組みながら会話を楽しんだ。
「今日はオーケストラという事ですが、おひいさん。よくクリスマスイブの日付けのチケットが取れましたね?」
「あははっ。実はアンナ先輩にチケットもらったんだ。輝さんは行きなれてると思ったんだけど」
「そうですわね。幼少の頃からよく参りました。クラシックの演奏は嗜みとして聞かされましたわ。タカノシアターもよく足を運びました。おひいさんは初めてですか?」
「えへへ。恥ずかしながらお初のコンサート体験です。あっ、でもね輝さん。アンナ先輩曰く今日のコンサートは、慣れた輝さんにも初心者の私でも楽しめる演奏会らしいよ?」
「アンナお姉さまが.......。そうですか。アンナお姉さまがそう言われるのでしたら。何を聴けるのでしょうか?楽しみですわ」
「うん。だから曲目は伏せて。見ないヨウニしてね!との事だよ」
それは非常に難しい事ではあったけれども、チケットの印字を目に入れないようにして、シアターの演奏の曲目を見ずに、なんとか2人でシアターに入って席を探した。
「ふふふ。こんな入り方したのは初めてでしたわ。手で見ないように隠して。凄い不審に見られて」
「ご、ごめん輝さん。恥ずかしい思いさせて」
「いえ。面白かったですわ、うふふふっ。今までのコンサートで一番」
「は、早いよ輝さん!まだ、演奏聴いてないよ!」
話しに落ちがつきながら、2人でクスクス笑う。
早く着いたし、まだ始まってはいないけれど、会場が静ひつな雰囲気なので、声を殺して笑う。
初めて来たけれど、綺麗な会場だった。
照明は少し暗めだけど、場内を照らしていて。
回り見ると、白を基調にした壁に、天井は丸くライトの光り。
「ここですわ。おひいさん」
席を確認して、腰を下ろす。
フカフカの椅子で、座り心地抜群だ。
これなら2時間は余裕に感じた。
会場は.....広いんだろうか?
来た事無いから分からない。
「こういった会場の中では、中ぐらいの広さでしょうか。ここは音響が素晴らしい施設ですよ?」
輝さんが教えてくれる。
早く来すぎたような気がしたけれど、会場には人がチラホラと埋まりつつあった。
そうこうすると、劇壇に演奏する人達だろう人が楽器をもって前に現れた。
私はボショボショと、
「も、もう始まるの?輝さん」
「まだですわ、おひいさん。音のチューニングですわ」
♪~♪~
縦笛だろうか?
横笛だろうか?
絃楽器?
様々な音が響く。
うん。
初めての私でも分かる、この会場の音響の良さ。
まだ曲を弾いていない楽器達の奏でる音が、既に気持ちいい。
ふふふ。
隣で静かに輝さんが笑う。
全くだ。
本番もまだ始まっていないのに、ウットリしてしまった。
時間を過ぎるのも忘れて、聴き惚れていたら、周りを見ると満席だった。
いつの間に.......。
人が増え、決してうるさくしていないのだろうけど、人の気配がざわついていた。
けれど、そのざわつきの気配も、天井の照明がフッと落ち、劇壇のスポットライトだけが眩しく照らされた時、静かになった。
人々の視線が、意識が、劇壇に向けられたのが分かる。
私は、静かで熱いこの空気に、ゴクリと喉を鳴らした。
端から、指揮者だろう。
燕尾服のスラッとした中年の男性が、コツコツと靴を鳴らしながら登場した。
演壇の真ん中に立ち、一礼する。
その時、さざなみのような拍手が舞い起こる。
私も乗り遅れずに、拍手する。
静かな。
静かな、熱い空気が。
指揮者が手を振って、管楽器と太鼓の控えめな音が鳴る。
その時、会場の空気が変わったのを感じた。
先ほどまでの熱い空気が、高原の涼しい風が吹いたように、心地よい空気になった。
輝さんを横目に見ると、輝さんも横目で私を見ていた。
私が目で、凄いね!
と送ると、輝さんが、まだまだですよ?
と目で返してきた。
凄いドキドキしてきた──!
続く