きたるべきトクベツ
夏海と見文に、クリパ誰の家でする?
と、聞かれた。
文化祭も終わり、冬休みを前にしたある休み時間の時。
輝さんが、席を外している時を狙ったかのように、腐れ縁の2人が私に、そんな話を振ってきた。
私は、う~んそうだな~と、いや実は......と、言いかけて私は気づく。
2人ともニマニマ笑っている。
「冗談だよ日衣ちゃん」
「出来立てホヤホヤのカポーに、んな野暮な事言わんて」
「え。じゃあ、これ何?」
ニマニマ笑いが素の顔になってる。
「いや、日衣心。去年のクリスマス。インフルエンザで寝たきりだったろ?んで、私と見文、輝さんの3人でやっただろ?」
「あ~そうだったっけ」
「それで日衣ちゃん、今年こそは!って4人でクリスマスパーティーしようとか言い出しそうだったから、釘を刺しとこうと思って」
「駄目だぞ、日衣心。付き合い初めが肝心なんだ。まして、クリスマスっつー重要なイベントだ。輝さんがどんな気持ちで待っているか」
キョトンとした私だけど、
「いや輝さんと2人で、何しよっかな?って思ってたけど?」
えっ。
夏海と見文が、驚く。
「ひ、日衣心が......私達の日衣心が.......色ボケた!」
「私達の心配した老婆心を......」
えらい言われようだな。
2人とも付き合ってるんだし、私だって輝さんと2人で聖夜を過ごしたい。
まだ付き合ってなかった去年とは、状況が違うのだ。
流石に、そんな子供じみた事は言わないよ。
「それなら何も心配するこたねえな!」
「落ち着いたら、また遊びましょう」
「いや、あっ......」
2人ともホホホッ♪と、自分の席に戻っていく。
いや、ちょうどいいし、2人に聞きたかったんだけど。
クリスマスになんか気の利いた催し無いかな?と。
だけど、タイムアップのようだ。
席を外していた輝さんが、戻ってきた。
「どうしたんですか?おひいさん」
なんでもないよ。
と、私は流した。
──私は、サプライズ的な感じで、輝さんとのデートプランを考えていた。
去年は一緒に過ごせなかったのもあって、気合いが入って掛かり気味になるのは致し方無いところ。
「考え事ですか?おひいさん」
隣の輝さんが気にしてくる。
......あんまり隠しても不審がられる。
サプライズだから、仕方ないんだけど。
でも少し悪い気がしてしまう。
早々に、アイデアを出さないと......。
「あロハ~♪」
通りすがりのアンナ先輩。
この人、よく通りすがるな。
アンナ先輩に、私と輝さんは、挨拶をして学食へ向かう。
.......うん。
経験豊富な、夏海と見文に聞きたかったけれど、経験豊富というならアンナ先輩もそうだ。
思いつきのまま輝さんに声をかける。
「ごめん!輝さん、先に言ってて!私アンナ先輩に用が出来た!」
「お、おひいさん!?」
小走りで廊下を走ってアンナ先輩の背中を追いかけた。
輝さんの姿が遠くなる。
うん、ついてきてないな。
確認して、アンナ先輩に声をかける。
「アンナ先輩!」
「オゥ。塚サン。何か困りごとデスカ?」
「はい。是非に教えて欲しいんです!」
「フム。クリスマスですカ?」
アンナ先輩が、ニヤリと頬笑む。
なぜ、そんなに察しがいいんですか?
テンポ良すぎませんか?
「フッフッフッ。後輩ニ頼られては仕方アリマセン。花知華にも頼まれてイマス。ユリマイスターの私にカカレバどんなお悩みもカイケツです!」
お、おおっ。
ノリが良すぎてちょっと心配。
「大丈夫~♪大丈夫~♪当ててアゲマス、貴方のナヤミ♪塚サン、パートナーがデキタテのホヤホヤで、クリスマスを特別なジカンにしたいと思ってマスネ?」
「は、はい!」
「スペシャルでサプライズなデートプランが知りたいのデスネ?オマカセくーださい。そんなクリスマスデートにはコレデス☆」
アンナ先輩がセーラー服の胸の谷間から、何かのチケットを出した。
ぷるん!
と、何か聞こえないハズの擬音が聞こえてきそうだった。
おっきいけどさ.......。
いや、どっから出してんですか......。
ユリマイスターは、お色気担当のようだった。
「クリスマスのデート。イロイロあります。シカシ、私はこれを推しマス!クリスマスオーケストラコンサート!!」
おっ!おおっ!!
予想以上の提案を食らって、ビビる私。
まさかのクラシック。
これは、レベル高すぎないか?
「イエイエ。だからこそトクベツなデートになるんじゃナイデスカ?」
「でも、マイスター。正直、付き合って安定してるカポーしか似合わないような気がして......」
「ちっちっちっ♪百もショウチノスケです!このコンサートは、デキタテほやほやカポーにも馴染みヤスイ、チョイスしてますから安心を。ドレスコードも高くアリマセン」
おお、初心者向けって事ですか?
そこまで考えてくれるなんて!
ところで、どんな楽曲で?
「イケバワカルサ♪」
ばちこーん☆と、丸い眼鏡の奥から碧眼のウインクで、グッドサインをしてくれるユリマイスター。
だ、大丈夫だよね?
.......信じるからね!
手にした2枚のチケットを、胸に挟み込んだ私。
廊下を元居た方向へUターンして、輝さんの待つ学食へダッシュするのだった。
続く