雷が落ちて光に満ち溢れる
お祭りのまっただ中の、浮き足だった人混みを眺めながらたこ焼きをひとつ口に放り込む。
噛むと、トロリと熱い生地とタコの身が口の中に溢れてしまう。
「ほっ!.......ほっふ!」
いけない。
十分冷ましたつもりだったけれど、まだ熱かった。
冷たいのは平気な方だけど、熱いのは苦手。
私は猫舌だった。
「お~。う~。熱~!冷たいの、冷たいの」
近くの模擬店で缶コーラが売っていたのを買う。
年上の高校生のお兄さんが様子を見ていたのか、微笑ましい顔で接客されてしまった。
ああ、恥ずかしい。
「んぐっ!んぐっ!.......ふぅ」
一息つけた。
私は、コーラを飲んで口の中を冷やした。
さて、どうしようか。
私はとある高校の文化祭にお邪魔していた。
どこを受けようか?
と、迷い見学してみようと1人来てみた。
一緒に来れる友達もいない。
友達欲しい......。
このお祭りを、一緒に楽しめる相手が欲しいな。
.......うん。
私は、まだ中学生。
まだ時間はある。
諦めるのは早い。
下を向きかけた顔を起こすと、目の前には掲示板がある。
たくさんの部の宣伝のチラシが貼り付けられていたけど、その中に見慣れない単語が目についた。
「走馬研究会?」
.......なんだろ?
こんな部活名、初めて見た。
場所は校舎の中だ。
じゃあ、体育会系じゃないよね?
文科系か......。
文科系なら、引っ込み思案で独りの私でも、大丈夫かも?
........うん。
面白そうだし、行ってみよう!
私にしては結構な見切り発車だったと思う。
得体が知れなくて、不安は不安だったけど。
珍しく、不安よりも好奇心の方が勝った。
──静かな廊下。
ひんやりとした空気の人気の無い廊下の先に、目的地の「走馬研究会」の部室が見えた。
──おおおおおおおおお!!
あれ?
あの灯りが部室だよね!?
なんか、むっちゃ人おおない!?
部室からは、中年男性の野太い歓声がしる。
「いや~これは違うな~」
回れ右して帰ろうとしたら、
目の前に初老の男性がいた。
「ひ.......!」
「おお。嬢ちゃんもここに呼ばれたんか?見ん顔やけど、はよ入りー。始まってまうで」
「呼ば.......?いえ、その......」
新聞?を脇に挟んだおじさんが、私を部室に押し込むプレッシャーがかけつきて、私は流されるように、部室内に入ってしまった。
──「いいぜ、上等だ。2人ともオレがたたんでやるぜ」
うおおおおおおお!!
満員の部室に、歓声があがる。
盛り上がってるなあ.....。
.......帰りたい。
前の方にゾンビの格好をした、背の小さめの女子がK.O宣告していて、そのもう2人の方を見ると、こちらは格好は制服で普通。
おんなじぐらいの背の小さめの女子と、もう1人は.......背の高い
.......狐目の美人.......っ!
──!!
私の背中に電気が走る。
その、背の高い女生徒を見た瞬間に。
あまつさえ、女生徒の周だけ光の粒子が出ているように見える!?
私はどうしていいか分からず、体の甘いしびれのままに、その女生徒から視線を外した。
危なかった......!(なにが!?)
そして周りを見てみると、のおじさん達が、ペリペリと新聞を見ている。
その新聞をこっそりと覗いて見ると、番号と名前が。
走馬.......あっ!競馬か!?
え。
賭け事は、未成年はダメなんじゃ?
えらいとこに来てしまった。
「こいつだ。14番のダブルピース」
ゾンビ姿の女生徒が宣言した。
まあ、予想だけならセーフ?
かな。
新聞を覗いて私もひと口。
「.......ソラタカクかな?」
前にいたおっちゃんの耳がピクリと動いた気がした。
ラッパの音が、前の方の人だかりの隙間から見えるタブレットから聞こえてくる。
リズムを合わして新聞と手で叩く音がして、拍子を取っていた。
まだ走ってもないのに、スゴい盛り上がり。
熱気に囲まれて、こーゆーの苦手なんだけど......いいかも?
レースが始まって、終わるまでの間。
さっきの狐目の美人さんを、チラリと見てみる。
やっぱり彼女だけ、一際私の目を引いた。
........綺麗。
彼女から、光が漏れているように感じる。
彼女を見ているだけで、ワクワクしてドキドキした。
そうして彼女ばかり見ていると、いつの間にかレースは終わっていた。
私は、チラリと見て。
「ソラタカク2着かあ。別にいいどさ」
呟きながらも、その光の彼女から目を離さなかった。
目が合う事は無かった。
まあ、私ボッチで陰薄いからなあ......。
彼女みたいになれないだろうか?
何か、スゴい配当らしく室内はどよめいていたけど、私は関係なく
心の中で誓う。
この高校に入ろう。
この部に入ろう。
そして、あの人みたいになりたい。
いや、なろう。
今からでもやろう!
「......光.....髪を脱色して......茶髪にして......言葉も.....ツインテもいいな......」
ぶつり、ぶつり、と帰り道独り言を漏らす私。
私は引っ込み思案の自分を改革する事にした。
あの人に憧れたから。
入学して、またここに来る資格の為に。
私は、西崎京子。
まだ黒髪だった頃の話し。
続く




