西崎京子先輩と私
──コツン、コツン、ジャラッ
寄せては返す波のように、メダルがいったり来たり。
減っては増えを繰り返しながら、午後3時を回ろうかという所。
私と輝さんと京子ちゃんの3人は、メダルゲームの後ろのベンチに腰かけて、ジュースを片手に休憩していた。
人世ちゃんだけ黙々とメダルを投下していた。
残念ながら、投下ばかりで増えていないようだ。
「いーんすかアレ?ほっといたら、ずーとあれやってますよ?」
「不得手なモノに熱中する娘ですわね」
「いいよ、いいよ。もうそろそろお開きにしようかと、思ってた時間だし」
「あれ?みんなは?京子せんぱーい」
ふと、集中していた人世ちゃんが顔を上げた。
キョロキョロとした人世ちゃんに、京子ちゃんが手をふる。
「京子ちゃんご指名だよ♪」
「私とおひいさんは、見守ってますわ」
「っすか。適当に声かけて下さい。西崎は見ときますんで、回ってもらっていいっすよ」
人世ちゃんの隣に座る京子ちゃん。
人世ちゃんがブー垂れている。
「どこ行ってるんですか京子先輩。メダルだいぶ減ってるんですか、取り戻さないと!手伝ってくれないと!」
「メダル減ってんのは、お前が下手だからだよ。へえへえ、帰る時間まで付き合ってやるよ」
コツリ、コツリとメダルを打ち込む2人。
この2人の様子を見て、また少しホッとした。
輝さんも同じ表情だ。
「少しだけ見に行こっか?ピラルク」
私は輝さんの手を取った。
──文化祭のあの時。
私は、新崎人世。
今日は、ある高校の文化祭に来ていた。
通う高校の候補のひとつとして、どんな校風なのか下見のつもりでとも考えていたけれど、特に決めていた訳でもなく、フラッと寄ってみよう。
そんな軽い感じだった。
この学校は活気に溢れていた。
もしもこの高校に受かったら、どんな部活に入るのだろう?
今の中学では陸上部で、体を動かすのは好きな方だ。
でもまったく違う部に入るのも悪くないなー。
そんな気まぐれも手伝って、文科系の張り紙を見てみた。
「.......走馬研究会?」
よくわからないけど気になって、その部室のある校舎へ入った。
ひんやりとした、涼しい廊下。
人気も少なく、外の賑わいとは対照的で。
「なんだかダンジョンの冒険っぽい♪」
目的の走馬研究会に着いた。
曇りがちの天気で廊下は暗く、部室からは光りが漏れていた。
その光りの中に人影が見える。
「あのう」
「うひっ!」
茶髪のツインテールのお姉さんに声をかけたら、お姉さんはビックリして変な声を上げた。
「ふぅ。違ったか。焦らせんなよチュウボウが」
挙動不審なお姉さんだ。
私は問いかける。
「この部の人ですか?」
「いちおーな。籍はある。中3か?」
「はい。この学校を下見しようと思って」
「ああ、私も去年おんなじ事したな」
「わあ、ほんとですか!?奇遇です!奇遇よしみで案内してください!」
「.......図々しいチュウボウだな。まあ、嫌みが無いし良いか。奇遇は奇遇だからな」
「わーい♪ありがとうございます。私、新崎人世って言います!」
「私は西崎京子だ」
西崎先輩は、この部の事を色々教えてくれた。
競馬の事はよく分からなかったけれど。
この部にまつわる先輩たちの話をしてくれた。
それは楽しそうに。
茶髪のこわもての格好に似つかわしくなく、少女のような表情で。
特に、後で分かる事になったけど、輝子先輩について語る時は、長くトクトクと、顔の表情がコロコロと変わった。
この人は、その輝子先輩の事がすごく好きなんだろうなというのが伝わってきた。
すくなくとも、不審者のお姉さんではないようだ。
「でも、まあ。.......身の程知らずな事しちまった」
楽しそうだった表情は一転して。
京子先輩は、とても悲しそうな表情になりました。
口元は笑みを作っているけど、その瞳は。
その瞳からは、涙は流れてはなかったけれど。
泣いていなくても、人はこんな悲しい顔になるんだと初めて思いました。
ほっとけない。
相手は年上の先輩なのに、私はそう思った。
その時、外から女性の声が聞こえてきて──
「京子ちゃん!!」
関係者?
その声を聞いた先輩が、慌てて逃げようとします。
すると、小さな背の先輩?が逃げる京子先輩に、タックル!?
けど、小さくて体格差があるから、引きずられてる.......。
ひょっとしてこの人、さっきの話しの中の1人の、花知華先輩?
「知り合いか?こいつの足を止めるの手伝え」
小さな先輩の楽しげな目と合う。
うん。
さっきの京子先輩もほっとけないし、ここも楽しそう!
私は即答する。
「楽しそうだから了解です♪」
私と京子先輩の始まり。
続く