三つ巴の勝負!
部室内に人が入ってくる。
ザワリ、ザワリと騒がしくなってきた。
去年に引き続いて来てくれた商店街の人達。
そして、生徒もちらほら混じる。
「久しぶり。今年も来たよ」
「最近どーさ?元気そうやな!」
「去年は、ごっつおさん。今年も乗らせてもらうで?」
輝さんの道場の陣海さんに、八百屋の政さん。
去年は当たり馬券で旅行に連れていってもらったっけ。
ギャラリーの前に私達は躍り出る。
どぉっ!
と、おっちゃん達が沸く。
私は、ひとつ深呼吸をして声援に応える。
「お久しぶりです皆さん!初めましての人も見に来てくれてありがとう!去年、的中した人も外れた人も今年も、今年こそは!当てましょうー!!」
ギャラリーに最初の挨拶が出来て、少しホッとする。
ヤンヤ、ヤンヤの喝采だ。
その喝采を受けて、花知華先輩が提案する。
「今年は、去年のオレみたいに乱入するヤツはいないのか?」
花知華先輩が、ギャラリーに混じって前で私達を見ていた人世ちゃんをチラリと見た。
それに100%応えるかのように、人世ちゃんの眼がキラキラと輝き......
「はい!はーい!私達も参加しまーす!いいですかー?」
人世ちゃんの隣に立っている京子ちゃんの腕を掴んで、ブンブン手を振った。
「い、いや、新崎!お前、残したら少し可哀想だなと思ったけど、なに私、巻き込んでんだ!」
京子ちゃんの腕に全身で抱きついた人世ちゃん。
真剣な眼差しを京子ちゃんに向けて、
「大丈夫です、西崎先輩。逃げないで下さい、私がいます。一緒にいましょう、やりましょう!」
闘気と慈愛の籠った目が、京子ちゃんを居抜く。
京子ちゃんはその目と言葉をを受けて、
「......新崎。お前、今日ちょっと喋っただけの仲じゃねーか。そんな関わりないだろ?」
「これから関わりますよ!私、この高校に入ります。今、決めました。西崎先輩、よろしくお願いしますね!」
「ば、馬鹿だコイツ......」
赤い顔しながらも、腕に抱きついている人世ちゃんを振りほどかない京子ちゃん。
あきれているようで、少し嬉しそうに見えたのは気のせいか。
あははははっ!
おっちゃんらも、生徒達も、人世ちゃんの豪胆さに大ウケだった。
花知華先輩が引き継いで、
「......さて?やるかい、京子?」
「やるしかないでしょう、この流れ。この流れ覆せるようなタマじゃないっスよ、私」
いいぞー女子高生!
なんか知らんが、駆け抜けろー!
ゆりんゆりんしろー!
まだレースも予想も始まっていないのに、部屋は熱気を帯びて、おっちゃん達も大興奮だった。
いいのだろうか?
いや、でも私は内心ホッとしている。
輝さんが、そんな私を見て声をかけてくれる。
「おひいさん、このままいきましょう。それでですね.......」
ポショポショポショ。
私に耳打ちをする輝さん。
.......。
なるほど、対戦の形式変更か。
それは、アリだな。
私はギャラリーに宣告する。
「では発表します!前回の大日本杯は個人戦でしたが、今年はタッグ形式といたします!」
おおおおおおっ。
どよめくギャラリー。
続けて私は続ける。
「私と輝さん。花知華先輩とアンナ先輩。京子ちゃんと人世ちゃんの3チームの対抗戦!全員1頭選んで、後輩達は、1頭でも3着以内に来れば勝ち。上級生チームは、1頭1着に来れば勝ち!で、どう?」
やれやれー!
参考にするぞー!
単複やねー!
「もちろん去年と同じく、勝者チームは敗者チームになんでもひとつ言う事を聞かせれます!」
ザワザワとするギャラリー。
「クックックッ!今年こそ、ちゃんとしたヤツいくぜ?後輩供!」
「あーあ、感傷に浸って見に来るんじゃなかった、チクショー。そろそろ離せ、新崎。もう逃げんから」
「あははっ!勝ちましょうね!京子先輩!」
唐突に三つ巴の、競馬予想対決タッグ戦が組まれたのだった。
やはり空は曇りのままで。
重たい馬場を駆けそうな、秋の天王杯だった──
続く