文化祭前夜
「そうそう。下にコテをくぐらせて......」
クルリ!
と、まん丸く薄い小麦色に焼けた生地が、見事にひっくり返る。
「わー♪私にも出来た!出来た!塚良さん教えてくれてありがとう!」
「うん。これ出来たら後トッピングだけだから、もう大丈夫だよ」
クラスメイトの女の子にクレープの生地の焼き方......ひっくり返すコツ?を、教えている私。
もう、文化祭が明日に迫っていた。
早いなあ......。
クラスの模擬店は軽食屋さんで、そのメニューの用意と練習中だった。
「食パンを軽く手を添える様に押さえて、このパン切り包丁で切り込みを入れて、刃を押し込むように切ります」
「わ!豪松陰さん上手!綺麗な切り口.....!お店で見るようなフルーツサンド!」
「コツを掴めれば出来ますわ。やってみましょう」
クラスメイトの娘にパン切り包丁を持たせて、その手に自分の手を添えて、力加減を教える輝さん。
ん?
気のせいかな、後ろに花の背景が。
キャイキャイと輝さんの周りに女の子が集まる。
その情景に、いちいち妬ける私だけども、その絵になる輝さんを見て、私この人と付き合ってんだなーと思うと、妬けた餅がプシューと空気が抜けるのだった。
「塚良さん、ひっくり返すのやっぱり上手ね~」
クレープの生地をひょいとひっくり返す私の袖をつまむクラスメイト。
クリクリした目の女の子。
あっ。
輝さんが、食パンを思いっきり掴んだ。
食パンの端から生クリームがブニュッ!ってはみ出て。
こちらを見る輝さんは、笑顔が張り付いている。
ち、違う!違う!
そーゆーんじゃないし、そー見えるのは輝さんの方だからね!?
首を横にフリフリ、口角を上げて、ウインクをばちこん!とする私。
輝さんも笑顔を絶やさずウインクする。
ギコギコと......。
食パンを切る包丁の動きが、ノコギリのそれだ。
めっちゃ動揺してる.....。
後でフォローしとこう。
こうして、文化祭の準備は着々と進んでいく。
時間も忘れて日が落ちて、クラスの準備は済んで、自分達の同好会の展示物の飾り付けをしていた。
「輝さん、さっきの違うからね?私大丈夫だから」
「わ、分かってますとも!おひいさんに限って!」
「だから手が震えてるよ?輝さん」
正面から動揺で震える輝さんの手を繋ぐ。
私は輝さんの、正面から横に座る。
連れて輝さんも座る。
「........」
暫しの沈黙。
私は輝さんの繋いだ手に力を入れる。
「......おひいさん」
「大丈夫。私は言い寄られる事先ず無いけれど、寄られてもちゃんと断るから」
「......申し訳ありません、私は未熟です」
「気持ちめっちゃ分かるけどね♪輝さんモテるから」
「いや、その。ご勘弁を......」
「ん。これで許してあげる」
私は目をつむり、少し顎を上げて輝さんに要求する。
「......おひいさん」
輝さんの顔と重なりかけようとした時、静かな部屋の外から、パタパタと上履きの音がして。
私と輝さんは目をバッチリと開けて、扉を見る。
ガラリとドアが開き、久しぶりのアンナ先輩が立っていた。
「アラ、おジャマでしたか?」
余り悪びれた口調ではなく。
私と輝さんは苦笑いした。
続く