夏空と秋の風
夏の終わりと秋の入り口の、丁度合間みたいな1日だった。
少し降っていた雨が上がった空を見たら、ふとそんな感じがしたのだった。
「......おひいさん。おひいさん大変です」
隣でお鍋でジャガイモを炒っている輝さんが、私の物思いに更ける腕をつついてくる。
「クラスの他所の班を見てみたら、肉じゃがを作っています。何を間違えたのか、私達は粉ふきいもを作ってしまいました!」
「そう。今から煮ればいいんじゃないかな?」
「それが気を聞かせてカレー風味と、チーズ風味と味をつけてしまった後でして......どうしましょうか......」
こんなうっかりな輝さんは初めて見た。
けれど私の気持ちはアンニュイなままで、笑顔で輝さんに宣告する。
「諦めて食べよう。食べ物に罪は無い♪」
私の目が死んでいたので、輝さんは私の笑顔を見てビクッ!と、なっていた。
「おひいさん、申し訳ありません......申し訳ありません......」
「ああ、輝さん、違うんだよ。私、どうもこの夏と秋の季節の合間って、なんだか凄く落ち込むんだ」
誤解を解いたら、輝さんはホーッと溜息をついた。
うん、そんなに怖がらせてしまって申し訳ない。
笑顔で安心する輝さんに、今度はちゃんとした笑顔で答える。
「貴女達は、なぜ肉じゃがではなく粉ふきいもを作ったのですか」
この後女史の先生に、お説教と補習の課題を頂戴しました。
いやー仕方ない。
心を障ってくる季節は罪だ。
──「はい、今から5分いくよー」
サラサラサラと、木炭を走らせる。
大まかなアウトラインの線を重ねて、これだなーという線を太くする。
対象を良く見て。
サラサラサラと、リズム良く白いカンバスを先ずは黒い線で染めていく。
描く対象は。
輝さんだった。
いやー、自分の彼女がモデルって力入るなあ!
クラスの皆の絵のモデルだよ?
自分が1番上手く描かなきゃいけない気がする。
椅子に座って足を組んで、手を添えている輝さん。
もちろん、服は着ていて(当たり前だ)
でも輝さんの事だから、こういう役回りもそつなくこなしている。
.......と、思いきや輝さんの顔がちょい赤い。
「豪松陰、暑いか?」
「いえ、大丈夫ですわ先生」
顔は赤いけど、汗が出ないとかどうやって?
と思うけど、大丈夫だろうか?
やっぱりクラス全員の視線の前で立つって、凄いプレッシャーなんだろうなあ......。
「いえ、おひいさんの視線が1番鋭かったもので......」
私かい!
休憩中に、私の横で書きかけの絵を見ながら、輝さんが呟いた。
恥ずかしそうに、嬉しそうに。
大丈夫かな、うちの彼女.......。
「おひいさんの絵、凄い細やかですわね。.......」
「ああ、うん。私基本通りに描いても、全体の一部分のパースが狂っちゃうんだよね」
「でも一生懸命描かかれてるのは伝わりますわ」
........お恥ずかしい。
今度は私が赤面する番だ。
「綺麗に描いて下さって......」
「いや、まだ全然途中だし!」
「はい、休憩終わりー。モデルは戻って」
「はい」
ツカツカと椅子に戻る輝さん。
......いかん。
まだドキドキしてるわ。
そんな私を見透かしたのか、魔性な輝さんが目を合わせてウインクする。
公の場なので、スルリと目線を外す私。
胸の鼓動は収まってくれないけど。
輝さんは、微笑で。
いつの間にか秋の空で。
私の不安定な気持ちも、いつしか落ち着いていた。
輝さんが時間を進めてくれたみたいだった。
続く