テスト勉強とドーナッツ
私と輝さんは、ビル内の1階にあるフードコートにたどり着いた。
閑散とした感じだけど、所々に人は座っている。
お年寄りから、小さな子供を連れたお母さん。
中学生もいた。
「こ、ここでテスト勉強するんですか?」
うん。
やっぱり輝さん初めてだよね。
楽しんでもらえるかな?
と、思ったけど、ちょっと無理めのリアクションだなあ。
あー、どうしよっか?
.......家に来てもらおうかな?
しかし、輝さんは次の瞬間目を輝かせて、両手をその大きな胸の前でガッチリ掴んで、感動を表した。
「これは!昔よく車の中から見た、ご学友との放課後の学外勉強!?まさか、私が......それも今日......塚さんと!!」
「ふっふっふっ。食べてよし。甘いのもよしですぜ、お嬢様♪」
額に手を当てて、目眩まし気味によろついて、椅子に座り込む、輝さん。
ちょっとオーバーリアクション気味の輝さんに、私も悪ノリして、どこぞの町人さんになってしまった。
酸素が足りないと、息を整えてる輝さんを見て、私は笑顔になる。
「輝さん座ってて。私とりあえず何か見繕ってくる」
レジで、商品を選んで精算をして少し待っている時間に、振り返って輝さんを見た。
ぼぅっとした感じの輝さんだったけど、こちらに気づき笑顔を向ける。
気になっていた女の子。
豪松陰輝子さん。
その輝さんと、こうして放課後に一緒にいるのを、私は改めて認識する。
私も頭が、ぼぅっとした。
勉強しに来たのに、いけない、いけない。
「輝さんお待たせ♪ドーナッツ買ってきたよ。今日は、お世話になるから私のオゴリだよ!」
まあ!いいんですか?
いいって事よ!
頬笑む輝さんに、私はまた町人さんになって答える。
2人でドーナッツを1つずつ摘まむ。
今からの勉強のガソリンだ。
「さあ、初めましょうか!塚さん、分からないとこはドンドン聞いて下さいね?」
「あい。おなしゃす!」
──周囲の少しの雑踏が、いいBGMになって。
時間は瞬く間に過ぎて、夕飯時が近付いてきた。
集中するには以外といい環境のようだった。
私達は、勉強道具を片付けて、残りのドーナッツも片付けながら、歓談する。
「輝さん教え方上手いなあ。私でも理解っちゃうんだもん。将来、先生目指してたり?」
「そうですね、教職もいいかも知れません。塚さんにそう言ってもらえたら、そう思えます」
「大げさだなあ、輝さん!あっ、最後にひと口、輝さんのフレンチクルーラーちょうだい?」
「え!?は、はい。いえ、でも!?」
ハムリと、輝さんのフレンチクルーラーに既にかじりついている私だった。
輝さんが顔を赤くしながら、何か言いた気な様子だった。
ああっ。
そりゃ、そうか。
世の中ギブアンドテイクだもんね。
これは悪いことした。
「はい、お返しに私のエンゼルフレンチ。輝さん、あ~ん♪」
「あ、あ~ん......!」
目をグルグルさせながら、顔が耳まで赤い輝さんがやっと、エンゼルフレンチにかじりついた。
最後のひと口も、ペロリと食べ終えて私は、
「ごちそうさまでした♪」
「ふしゅ~」
──何故か顔が赤いままの輝さんだったので、心配になって、家まで送ろうとしたけど、大丈夫です!大丈夫ですから!と、言われては仕方ない。
しかし、なんで輝さんあんなになってたんだろ?
記憶をひっくり返して、考えながら帰路に着く。
「あ~ん♪」
「あ、あ~ん......!」
.......やっちゃった!
テスト勉強が片付いて、解放された反動で、なんも考えずに、ノリだけでやっちゃった!
サーと、血の気が引いていくけど、あの時の輝さんの表情を思い出したら、引いた血の気が戻ってきて、顔が赤く染まった。
「輝さんも、おっとりしてるなーって思ってたけど、私も大概天然だー!!」
夜のしじまに乙女の慟哭が響き渡るのだった。
はぁ.......。
明日、どんな顔で会えばいいんだ.......。
続く