目に飛び込んできた貴女
──綺麗な娘だなあ。
モデルの様にスラリとした長身の、長い黒髪で少し狐目のそのセーラー服の女の子が目についた。
周りが酷くボヤけて、その娘だけ浮かび上がった様に見えた。
その娘は、掲示板に張られたクラスの発表を見ていて、見終えて同学生の人混みの中に紛れてしまった。
おっと、いけない。
私も、クラスの確認をしないと。
私もまた人混みの中に紛れていった。
──春の。
高校の入学式での記憶。
あれだけ鮮烈に記憶に残った娘なのに。
同じクラスになったのに。
気になって声をかけようと思ったのに。
最初のタイミングが外れて、違う友達グループになっちゃって、それでも声をかけようと思えばかけれたんだろうけど、今の今まで何も出来ない私ってなに......。
何も出来ず、もう2学期が始まった。
さすがに。
さすがに、今さら声をかけるのも不自然だと私は半ば諦めようとしていた。
「日依心ー。お昼先に学食いってるよー。日直がんばれー」
「いっそげー♪」
「は、はくじょうものー!後、名前で呼ぶなってんでしょー!」
私を置いて学食へ走る友人達。
私も、サバサバした性格なので言えないが、類は友を呼ぶ。
私の友人達も大概ドラスティックだ。
私は、塚良日依心。
高校一年生。
名字は良いんだけど、名前のひいこって響きが、納得いかなくて余り好きじゃない。
呼んでくれるな、というのに悪友達は好んで呼んでいく。
言ってても仕方ないと。
パンパンと、黒板消しを窓の外ではたく。
まだ冬服には変わってないし、まだ9月だけど少し涼しく感じた。
腕に、ピぅと風が当たる。
むっ。
冷え性も手伝ってか、若干寒い。
窓の外に、赤トンボが.......。
早くない!?
昨今の異常気象には、付き合いきれないと窓を閉め、綺麗になった黒板消しで、黒板を綺麗にする。
不毛だ。
それにこの日直の黒板消しは、私にとって大敵だった。
黒板消しが届かない......。
背が低いのは、こういう時すごく困る。
私は高校生にもなって、黒板を消す事も出来ないのか。
私は、高校生にしては背も小さい。
ミニッ娘もつらいよ。
苦闘しながら黒板を拭いていたら、目の前に大きな影が出来た。
「お手伝いしますね」
私を後ろから覆ったのは、春の入学式のあの娘で、今だ話しかけられなかった、少し狐目の女の子。
名前は、クラスの名簿で知っている。
豪松陰輝子。
よもや、手伝ってくれるとは、接点が出来るとは思いもよらず、私は、ありがとうの一言も出てこなかった──
続く